第17章 初任務《弐》
「うむ。立派な大神様だ! 空気も一等澄んでいる!」
それから小一時間。辺りをくまなく調査しながら登り詰めた稲荷山の頂上。
杏寿郎と蛍を出迎えたのは、山全体を神域とした頂点の立派な大社だった。
石の大きな鳥居が迎える、一ノ峰大社(いちのみねたいしゃ)。
台座の上には無数の朱い鳥居が、丁寧に重ねて積み上げられている。
異様にも思えるその光景は不思議と神秘的で、杏寿郎は感嘆の声を上げた。
「折角此処まで来たんだ、手を合わせていこうか」
「……」
「蛍」
「あ。うん」
最初こそ未知の世界にはしゃいでいた蛍だったが、じっと辺りを注意深く見回している顔色は暗い。
名を呼ばれようやく顔を向ける蛍の肩に、杏寿郎は手を置いた。
「色は見えなかったんだろう? そう焦ることはない」
「…でも…ようやく、何か見つけたと思ったのに」
「色が見えた」
そう蛍が口にしたのは、重軽石に目を見張った後だった。
「この花と同じ色だったから、絶対関係あると思ったのになぁ…人以外で、見えたこともなかったし」
「その色視えとは、鬼の異能の一つなのか?」
「…多分、違うと思う」
〝人の持つ色が見える〟
初めて蛍から聞かされたその話は、誰にもしたことがないと言う。
元々人間であった時から、特定の人物から微かに感じていた色合いが、鬼化してからはっきりと見えるようになった。
となれば血鬼術の類ではないのかもしれない。
懐から取り出した赤八汐の花。
溜息をつきながらその花を見つめる蛍の眼には、世界はどのように映っているのか。
「柱会の時に似たようなことを言っていたが、よもや本当に見えていたとは」
「そんなこと言ったっけ?」
「ああ。蛍も結構な量の酒を嗜んでいたからな。夢現の言葉かと思っていたが」
「よく憶えてたね…恥ずかしい」
「だとすれば俺の色は──…」
拙い言葉で伝えてきてくれた、あの日のことを思い出そうとしてふと杏寿郎は口を噤んだ。
目の前で照れた顔を見せる蛍を、気遣った結果ではない。