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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



「…そうだね」


 胸の位置にくる灯籠に置かれた珠。
 大ぶりの林檎程の大きさのそれを、そっと両手で包むようして蛍は掬い上げた。

 初詣の時は、鬼殺隊の地で生きていく為に皆に認められる自分になるよう決心をした。
 結果、その誓いは遂げられた。
 もし神様が、気紛れにでもその誓いを聞いてくれていたのなら。


「生きていたい。悪しき鬼がいない世界でも、私は私として」


 鬼であっても人であってもいい。
 ただひとつ。


(このひとの、隣で)


 太陽のように笑う彼の傍に、いられたら。


「…うん。やっぱり、軽いね」


 両手で添えるようにして持ち上げた珠は、鬼である蛍には羽毛と同等だった。
 これではやはり誓いもへったくれもない。


「あはは。重軽石の意味、あんまりないかも」


 珠を戻しながら笑い見上げれば、予想以上に優しい双眸と重なった。


「杏寿郎?」

「うん?」

「いや…何?」

「ああ。ならば俺は蛍のその誓いの手助けをしよう」

「それ、さっき私が言った」

「はは。そうだったか?」

「うん」


 順番を譲る為に人の列から外れる。
 そんな最中でも優しい瞳で笑うものだから、肌にこそばゆく蛍は頸を竦めた。


(生きていたいと、思えるのだな)


 そんな蛍を前に、杏寿郎は噛み締めるように言葉を呑み込んだ。

 蛍にとっては、杏寿郎の誓いの延長線上だったかもしれない。
 しかし人として死にたいと言っていた彼女が、悪しき鬼のいない未来に生きることに望みを持つようになったのだ。

 些細だが、確実に進んでいる蛍の歩み。
 堪らず微笑みも零れ落ちた。

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