• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 つられて声を上げれば、そんな二人のやりとりにくすくすと周りの含み笑いが連鎖する。
 尚の事蛍は竹笠の端を掴むと、羞恥の顔を隠すように深々と下げた。

 以前、初詣で他人の好奇の目に晒された時は、居心地の悪さしか感じなかった。
 今もまた羞恥で消え去りたい気持ちはある。
 しかし以前なかった猩々緋色の彼が隣にいるだけで、羞恥だけではない想いに鼓動は増して。

 どうしようもなく口元も綻んでしまうのだ。



「──あ。順番、来たよ」


 ようやく拓けた視野を前に、揃いで二つ、並ぶ灯籠へと赴く。
 信仰深くはないものの、人並みに敬意も抱いているであろう杏寿郎は、一体神に何を誓うのか。
 興味を持ち様子を伺えば、あっさりと片手で珠を持ち上げた杏寿郎の口がくわっと開いた。


「この場で誓うことは一つ。悪しき鬼のいない世界にすることだ!」


 迷いのない目で笑う杏寿郎に、らしいと再び口が綻ぶ。


「そんなに大声で誓い言、言っていいの?」

「うむ! 問題ない!」

「珠は重い?」

「軽いな!!」

「やっぱり」


 弛まぬ鍛錬で鍛え上げられた杏寿郎の腕では、成就の重さも軽さもへったくれもない。


「して、蛍の誓いは?」

「あ…うん。私は、杏寿郎の誓いの手助けになれること、かなぁ」

「そんなことでいいのか?」


 軽々と持ち上げていた珠を丁寧に灯籠の上に戻しながら、問いかけてくる。
 その目を丸くし頸を傾げる杏寿郎に、そんなことではないと蛍は笑った。


「私にとっては大きなことだよ。杏寿郎の継子だしね」

「ふむ。…だが君が心から望む誓いは、別にあるだろう?」

「…なんでそう思うの?」

「継子である前に、君は彩千代蛍という一人の女性だ」


 否定はできなかった。

 悪しき鬼のいない世界。
 鬼のいない世界ではなく、悪しき鬼と限定して告げた杏寿郎の望む世界に、甘えてもいいのなら。


(…私は、その世界で生きていてもいいのかな)


 杏寿郎に問えば当然だと笑ってくれるだろう。
 そんな彼の隣に並び立つことが、彼以外の誰しもに認められるようになれるならば。

/ 3624ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp