第17章 初任務《弐》
「蛍も言っただろう? 願い事ではなく誓い事だと。思いは人を強くする。言葉に成すだけでも、先を進む己の道導となる。神や仏には、その導(しるべ)の表札にでもなって貰えばいい」
今度は蛍が、杏寿郎を凝視する番だった。
まじまじと物珍しげな目で見上げてくる。
「なんか杏寿郎ぽくない…」
「そうか?」
疑問を向けられているというのに、杏寿郎の口元は蛍とは真逆に和やかに緩んだ。
「神や仏を蔑ろにする気はないが、誓いは己に立てるものだと思っている。願いを成就させるには、己の弛まぬ努力が一番の道だとも思っている」
「あ…それ、杏寿郎っぽい」
「はは。そうか」
「じゃあ杏寿郎はこういう場所、興味なかった?」
「いや。何かを一心に信じる人の心は尊いものであるし、こういう場所は空気が澄んでいて心地良い。改めて自分の在り方を見つめ直せたりもするからな。俺は好きだぞ」
「……」
「どうした?」
じっと無言で見上げていたかと思えば、不意にまた目を逸らされる。
淡々とした色に戻るかとも思ったが、違った。
「杏寿郎が好きなら…私も、好きでいる」
ぽそぽそと伝えてくる声は、先程と等しく杏寿郎しか拾えないものだった。
しかしその音色は先程とはまるで違う。
「初詣もそうだったけど、誰かと一緒にこういう場所を回るのは楽しいし…杏寿郎のその思いの傍にいたら、私の曲がった心も少しは洗われる感じが、するし。……理由が疾しいって、神様に祟られるかな」
指先で口布で隠れた鼻の頭を掻く。
罰の悪さと恥ずかしさが入っているのか、消え入りそうな声は小さくとも感情が込められていた。
蛍の思いもかけない言葉に、杏寿郎は腕を組むと笑顔で「うーん」と呻る。
「蛍のその思いが曲がっているとは思わないが、どうしたものか」
「?」
「愛い!という言葉しか出てこないな!」
「ちょ…っ声大きい!」
「ははは! すまん! 本音だからな!!」
「なんで謝ってるのに更に大きくなるかなっわざと? わざとなのかな!?」
前にも後ろにも人だかり。
よく通る杏寿郎の大きな声に、人の視線が突き刺さり蛍は竹笠の下の顔を赤くした。