第17章 初任務《弐》
「あの灯籠の上に、珠のような石が見えるだろう? 願い事をしながらあの珠を持ち上げる。その時、軽いと感じれば願いは近く成就し、重いと感じれば成就には未だ時間がかかる。そう言われている」
「へえ…だから重軽石。面白いね」
「持ってみるか?」
「いいのっ?」
そわそわと人だかりを見つめる蛍は、さながら駄菓子屋を前にした子供のようだ。
そんな姿を目にしては止める気にもならないと、杏寿郎は笑って頷いた。
「しかし蛍がそんなに信仰深かったとは。前に初詣に神社へ赴いた時には、気付かなかったな」
「信仰深い?」
人の波に流れて並ぶ。
隣で興味深く見てくる瞳を見返して、蛍は徐にその視線を外した。
「…別に信仰深くなんかないよ。神様とか、仏様とか…そういうもの、あんまり信じてないし」
場所が場所だからか、告げる蛍の言葉はようやく杏寿郎の耳に届く程小さい。
それでも聞き間違いではなかった。
先程の駄菓子屋を前にした子供の姿など何処にもない。
静かに人の波の先を見つめる目は、淡々としている。
「そうなのか? だから楽しんでいるものと…」
「楽しいよ。杏寿郎と一緒に、知らない世界を満喫してるから。…でも、どんなに信仰深くいたって、大事なものを奪われる時は簡単に奪われる。都合の良い時に助けてくれる偶然なんて、ない」
「……」
「どんなに願ったって──…あ!」
「む?」
「そうだ、杏寿郎。参拝の時は願い事じゃなくて誓い言をするんだって。初詣の時に、伊黒先生と蜜璃ちゃんに教えて貰ったの。知ってた?」
「ああ…まぁ」
「そうなんだ。私は知らなかったなぁ」
再び物珍しそうに、蛍の瞳が灯籠を追う。
そこに先程までの無頓着さは見えない。
それでも、先程の顔も言葉もまた蛍の本心だった。
じっと横顔を見つめていた杏寿郎の視線も、やがて先を追う。
「神や仏を信じるか否か、蛍の自由だ。それを咎められる者など何処にもいない」
「?」
「ただ、この場に訪れたことも何かの縁。ならば誓えるなら誓えるだけ、神や仏に押し付けていけばいいのではないか?」
「押し付けって…」