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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



「とにかく行ってみることだ!」

「うん」


 文子は、この伏見稲荷大社にお参りに寄ったという。
 鬼に繋がりそうな点を挙げるならば此処しかない。

 鳥居を潜る杏寿郎の後に蛍も続く。
 橙色の夕日が二人の背をゆっくりと押すように、照らし出していた。



 楼門を通り本殿を越えれば、すぐに見えてきたのは千本鳥居。
 朱色の鳥居が連なり、何処までも続くトンネルのような道を作り上げている。


「わあっ凄い、朱い道だ」

「うむ。中々に良い色味をしている!」

「此処の建物ってどれも立派だね。さっきの本殿も凄かった」


 流造(ながれづくり)とされる特徴的でなだらかな大屋根。
 軒下に飾られた繊細な造りの破風(はふ)や懸魚(げぎょ)。
 扉や高欄(こうらん)には目を止める程に輝く金飾り。

 音柱の天元が目にすれば「派手だ」と叫び出しそうな程の豪華な建物だった。


「列車の中もそうだったけど、此処もそう」

「む?」

「なんだか別の世界にいるみたい」


 鳥居のトンネルを二人して歩く。
 数歩先を行く蛍の足は軽やかに、木々と鳥居の隙間から落ちて来る弱い夕日に手を伸ばした。

 太陽光が弱いが為に、足取りが軽くなっている訳ではない。
 連なり魅せる朱い道も、カナカナと歌うヒグラシの声も、稲荷山の澄んだ空気も。
 鬼も人も関係ない、全くの別の世界へと迷い込んだような錯覚にさせる。


「知らない世界に杏寿郎と二人って、なんだか贅沢だなぁ」

「贅沢、か?」

「うん」


 日除けの竹笠を被っている為、蛍の表情は読み取り難い。
 それでも確かに杏寿郎の目に焼き付いた。


「だって、杏寿郎の世界を一人占めしてるみたいでしょ」


 振り返り笑う。
 竹笠の影の中で煌めく緋色の瞳を。

 「そうだな」と打とうとした相槌は出てこなかった。
 鳥居の囲う世界で笑う彼女が、浮世離れしているようにも見えて。
 知らない世界に溶け込んでいくような気がした。


「…杏寿郎?」


 気付けば踏み出した足。
 その手は蛍の腕を掴まえていた。

 不思議そうに呼ぶ蛍に、すぐに腕を離した杏寿郎の手は彷徨うこともなく、繋ぎ止めるように細い手を握り込んだ。


「ならば俺にも一人占めさせてくれないか? 君の見る世界を」

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