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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 杏寿郎と蛍の問いが重なる。
 内容を詳しく問い質そうとした瞬間、文子の顔色が変わった。
 元々蒼白だった顔が一気に青みを増す。
 両手で口を押さえ込んだかと思えば、喉がごぷりと嚥下した。


「おえ…ッ!」

「文子!」


 激しい嗚咽と共に、かさついた唇から零れ落ちる唾液。
 唐突な嘔吐だった。

 一度の波ではなかった。
 何度も激しく嗚咽を繰り返す文子の口から、零れ落ちる唾液。
 それと共に、はらりと薄い桃色の花弁が布団へと舞い下りた。


「おぇ…ッえッ」

「文子…っ文子!」


 一枚、二枚。
 苦し気に吐き出す濁音とは裏腹に、幻想的にも見える花弁の舞い。

 咄嗟に脇に置いていた日輪刀を手に、立ち上がり周りへと警戒を張り巡らせる。
 しかし杏寿郎の探知能力を持ってしても、傍に鬼の気配は感じられなかった。


「おげ…ッ!」


 ぼとり。

 一層喉を震わせた文子の口から、溢れ落ちる桃色。
 それは薄い花弁ではなく、花弁を折り兼ねた一輪の花そのものだった。

 むわりと蛍の鼻を突く、甘さの濃い匂い。
 胸焼けさえ起こしそうなそれに、思わず掌で鼻を押さえ込む。


「文子ぉ!」


 花を一輪吐き出したのを最後に、糸が切れたかのように意識を失った文子の体が倒れ込む。
 抱き止める父の叫びを耳に、杏寿郎は眉間に皺を刻んだ。

 花弁だけでなく、花そのものまで吐き出すようになってしまえば。


「…時間がない。急がねば」


 それは、死への宣告。












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