第17章 初任務《弐》
唐突に話題を引き戻される。
闊達に早々と結論付けることも多い杏寿郎だが、その目はじっと蛍を見て問うてくる。
必要な情報は与えた。
ここから先の行動は、蛍自身が決めろと。
「え。と…病にかかっている人は、この都にもいるんだよね?」
「うむ! この都のみで発生している病症だ」
「じゃあ、一先ずはその患者から情報収集かな。鬼は昼間だと出てこないし…これだけ広い都なら、発生場所を特定しないと出会う可能性も少なそう」
「良い読みだ。元々隊士達から集めていた情報場所を先程回ってみたが、鬼の痕跡は見当たらなかった」
「えっ先程? いつ?」
「藤の家に寄る前だ」
「もしかして…あの竹林の森?」
「桜道と河川敷もそうだぞ」
「そうだったのっ?」
ただ歩き回っていた訳ではなかったのか。
痕跡を探していたのか、蛍が光景に目を奪われている間に杏寿郎は柱としての仕事を行っていたのだ。
驚きと感心で開いた口が塞がらない。
「最後に隊士が花吐き病にかかったのも、一ヶ月も前のこと。その間、鬼が住処を移動している可能性も考えられる。故に新しい情報は必要だ」
綺麗に食べ終えた串を脇に置かれていた竹筒の中へと入れると、杏寿郎は腰を上げた。
「では蛍の言う通り、早速情報収集と行こうか!」
「文子(ふみこ)。体調はどうや? 話せそうか?」
「…はい。お父はん」
「罹患(りかん)の身に負担をかけるような真似をしてすまない。しかしその病を治す術が見つかるかもしれないんだ。話を聞かせて欲しい」
「…うちで、よければ」
布団のみが敷かれた八畳程の一室。
細い体を父に支えられながら起こす若い女性を、蛍は座する杏寿郎の隣で観察するように見つめた。
要の案内で訪れた患者の家。
この屋敷の一人娘が、花吐き病に一週間前からかかっているとのこと。
父に支えられないと起き上がれない程衰弱した体は細く、肌も血の気を退いたかのように蒼白い。
健康的であれば、美しい顔立ちをしていたのだろう。
その面影を残す顔も今では、頬は痩け唇はかさついていた。