第17章 初任務《弐》
変わらず幼名を名乗り続けるか、隊士に新しい名を貰うか、はたまた鴉自身で自分の名前を付けるか。
その時三択に別れるのだと、蛍は蜜璃から聞いたことがあった。
蜜璃専用の、頭に花を飾った気弱な鎹鴉の名は麗(うらら)。
愛くるしいその名は蜜璃が付けた名だ。
要の名前は、誰が付けたのだろうと。なんとなしに気になりながら蛍が人差し指で黒い喉元を撫でれば、要は気持ち良さそうに目を瞑った。
感情に素直なところは、主の杏寿郎に似通ったものがある。
「その名は、要自身が付けた名だ」
「要が?」
「ああ。お館様から頂いた名を捨てさせるなど、仕える者として薦めていいかわからなくてな。だから要自身に決めさせた。今の名を語るも、新しい名を語るも良しと。だから名の理由は要に訊くといい」
「えっと…要?」
優しい杏寿郎の笑みに背を押され、ちらりと蛍の目が黒い鳥目に向く。
杏寿郎の肩の上で向きを変えると、要は真っ直ぐに蛍へと向き直った。
「我ガ杏寿郎様二就イタ時、自分ノ〝要〟トナッテ欲シイト頼マレタ。共ニ刀ヲ握ッテ戦エハシナイガ、杏寿郎様ト他者ヲ結ブ、大事ナ点トナル要ダ。ダカラソノ名ヲ望ンダ」
「だから、要」
「アア。ソノ役目ヲ全ウスル為二。…単純カモシレナイガ」
「そんなことはないぞ。俺の望みをしかと受け止めてくれたからこその名だ。俺は好きな名だ!」
「うん。私も好きだな、その名前」
全身全霊で役目を全うする姿勢は、やはり炎柱を思い起こさせる。
爽快に笑う杏寿郎に、つられて蛍の顔も綻ぶ。
「では俺も訊いていいか? 蛍の鎹鴉の名を」
それを止めたのは、爽やかなままの杏寿郎の問いだった。
「その鎹鴉は、蛍が名付けたのだろう?」
「うん…でもそんな要みたいな立派な理由じゃないよ。右目の負傷が、独眼竜の戦国大名みたいだったから」
「成程、だから政宗なのか! 勇ましい名だな!」
ちらりと蛍が縁台の反対側に目を向ける。
其処には要とは対照的に、うんともすんとも言わない鎹鴉がぎりぎり隅に座っていた。
蛍の鎹鴉に任命された政宗だ。