第17章 初任務《弐》
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「花を吐く?」
「そうだ。日本全土において、そんな病症は発見されていない。人体に詳しい胡蝶も、そんな症状など見たことがないと言っていた。故に鬼が関わっている可能性が高いと」
出店が並ぶ城下町。
人の賑わう通りを眺めながら、店の前にある長腰掛の縁台に、二人して腰を下ろしていた。
朝食を抜いては腹も空くと、一軒の団子屋に杏寿郎が足を止めたのが発端。
ならば先程の藤の家で食事を頂けばよかったのではとも思ったが、あの場の居心地がよかった訳ではない。
杏寿郎なりの気遣いかもしれないと、蛍も大人しく従った。
設置された大きな番傘の日陰で一息もつけるし、華やかな街並みを見ている方が余程面白い。
「所謂〝花吐き病〟と呼ばれている」
「まさか、血鬼術の類?」
「それを調べる為に幾人もの隊士が送り込まれたが、鬼に出くわすことはなく原因もわからず終い。その間、花吐き病にかかる者もいればかからない者もいた。そして病にかかった者は」
「ヤガテ衰弱シ死二至ル」
「うむ! 要の言う通りだ!」
性格は反対でありながら、息ぴったりに杏寿郎の説明を繋いだのは炎柱の鎹鴉。
杏寿郎の肩の上が気に入っており、よく停まる姿を見かけていた。
今も安定した様子で肩に停まったまま、足を折り畳み休んでいる。
「どうだ要。団子は美味いか?」
皿に山盛りの団子を食す勢いとは裏腹に、肩の要に串に刺さった団子を差し出す動作は細やかだ。
そんな杏寿郎に、器用に嘴で串から団子を抜き取ると、もぐもぐと租借しながら要はこくりと頷いた。
動と静のような、炎と空気のような一人と一羽。
天元の鎹鴉である虹丸のように、この主にしてこの鴉ありと言う性格をしていない。
それでも杏寿郎と要の間には、言葉では言い表せない繋がりがあるように蛍は感じていた。
「なんで要なの?」
「む?」
「要の名前。綺麗な響きだとは思うけど」
鎹鴉には、元々産屋敷耀哉が最初に付ける幼名(ようめい)がある。
その後、鎹鴉として訓練を積んで実力を付けた鴉は、鬼殺隊の隊士一人に一羽ずつ任命される。