• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 しな垂れるように青葉の腕を下げる桜の木々。
 太陽光をも遮断する程高く背を伸ばす竹林の道。
 石の煉瓦が積み重なり扇形に描く川の橋。

 何処を歩くにしても蛍にとっては珍しい光景ばかりで、つい竹笠の下から覗くように忙しなく目が動く。


「蛍」

「え?」

「此処だぞ」

「! ご、ごめんなさいっ」


 ついその足は、先を歩く杏寿郎を追い抜いてしまっていた。
 一つの門を前に足を止めた杏寿郎が、振り返る蛍に向けて笑う。


「京に来たのは初めてか」

「うん。大きい建物ばっかりで吃驚した。どの道も綺麗だし…歩いている人も、いっぱい」

「はははっ大きな都だからな。京の魅力はなんと言っても歴史ある建造物だ」

「うん、聞いたことある。清水寺とか、金閣寺とか…杏寿郎、見たことある?」

「ああ。全てとは言わないが、任務で何度か訪れている場所だ」

「そんなに?」

「大きな都程、人も賑わう。人が賑わう場所には、鬼が出る」

「成程…」


 二人の会話を遮ったのは、ばさりと羽搏く羽音。
 門の中へと目を向ければ、先に伝達の為に飛ばしておいた鎹鴉の要が、家の者を連れて飛んできていた。


「これはこれは…! お久しゅうございます、炎柱様」

「うむ! 今回も世話になる!」


 いそいそと歩み寄る男性に、肩に停まる要をそのままに杏寿郎は明るい声を飛ばした。

 此処は京都に佇む、藤の家。
 【藤】と書かれた文字を囲むようにして、輪を作る藤の花弁。
 藤屋敷の家紋であろう、それが刻まれた大きな門を蛍はしげしげと眺めた。


「先に伝わっていると思うが、手荷物を届けに来た。任務を果たすまで預かっていて欲しい」

「ええ、勿論で御座いますとも。本部からはるばる来られはったとか。お疲れでしょう、休まれていきますか?」

「いや、陽の明るいうちにすべきことがある。その心遣いだけ頂こう!」

「然様ですか」

「蛍。荷物を」

「あ、はいっ」


 言われるがまま、頸にかけていた風呂敷の口を解いて男へと渡す。

/ 3623ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp