第16章 初任務《壱》
赤々と燃えるような眼光に金環がかかる強い瞳。
その目が少女を捉えたまま、微動だにしなくなった。
「んっ」
刹那。
息もつかぬ間に捉えた二つの腕が、幼い体を抱き寄せる。
強く抱きしめられた顔を猛る髪に埋めて、蛍は幼く丸い目を更に丸くした。
「きょ、じゅろ?」
「……すまん。今は、顔を見ないでくれ」
少女の胸に顔を埋めたまま、届いた声は普段の杏寿郎からは想像もつかない程、か細いものだった。
最初こそ驚いた顔をしたものの、蛍はやがて体の力を抜いた。
大きな声で笑い、射抜くような眼光を持ち、常に前を向いていく。
明るい彼が強烈な程に印象に残ってしまうだけで、そうではない時の彼も知っていた。
寝起きの穏やかな潜めた声も。
蛍が欲しいと灯火を宿した瞳も。
ヤキモチを妬いて照れた顔も。
蛍しか知らない顔を、彼は幾つだって持っている。
「どういう顔をしているのか、自分でもわからないんだ。だがきっと情けない顔をしている」
「…なさけなくなんかないよ」
そうと伸ばした両手で、獅子の頭を抱きしめる。
「きょうじゅろうのひっぱってくれるつよいこえもすきだけど、しずかなよあけにきくゆるいこえもすき。てれたときのよもやも…よふけに、わたしをよぶこえも。どんなきょうじゅろうだって、わたしのすきなひとにかわりないから」
稲穂のように柔らかな金の髪に指を埋めて。
ふわりふわりと撫でながら、愛おしげに音を紡いだ。
「だから、なさけなくなんかないよ」
どんな表情の彼であっても、受け入れられる覚悟は十分あった。
鬼である自分を、ここまで踏み込ませ受け入れてくれたからこそ。
そんな杏寿郎にとっての拠り所でありたいと願った。
「きさつたいではじめて、よるのさんぽをしたあのひも。こきゅうほうをおぼえたいって、ねがったあのひも。おにだからって、ふみだせなかったあのひも。いつもあしをむけて、てをのばして、ふれてくれたのはきょうじゅろうのほう。…だから、こんどはわたしのばん」
太陽のような芯の強さも、何事にも揺るがない精神も、持ち合わせていないが。
それでも、許されるのならば。
「あなたのこころに、ふれさせて」