第16章 初任務《壱》
「すぐにでも下山したいところだが、少しだけ待っていてくれないか」
咽び泣く少女を抱いたまま、次に向かうべき所へと足を向ける。
一人一人、骸(むくろ)と化した剣士と子供達の遺体を丁寧に並べた。
彼らを運び下山することはできない。
後ほど隠に情報を伝え、供養して貰うことしか。
最後に見知った少年少女の体を、木々に凭れかけさせ座らせた。
寄り添うように、並べて。
死後硬直が始まっているのか、少女を抱いた形の腕のまま。
また少年の手には、指文字の痕跡がしっかりと残されていた。
その手を、そっと下から添えるようにして握る。
「皆のお陰で、命を守れた」
ただ一つの命。
それでもこの腕の中の少女が生き永らえたことには、大きな意味がある。
此処にいる全ての散った命が、この少女の命を繋いだのだから。
「ありがとう」
最期まで戦ってくれて。
自分ではない、誰かの為に。
「助けてくれて、ありがとう」
尊い少女の命と、そして己の命をも。
助けてくれたのは亡き彼らだ。
そっと握った手を離す。
少女を抱いたまま腰を上げた杏寿郎は、この場に置いていく剣士達を見渡し別れを告げた。
事切れた彼らの、寝顔のようにも見える表情を、一つ一つ脳裏に焼き付けて。
「…いつか、また」
悼む瞳で、消え入るように微笑んだ。