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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第16章 初任務《壱》







 人生は選ぶことの繰り返し
 けれども選択肢は無限にある訳ではなく
 考える時間も無限にある訳ではない

 刹那で選び取ったものが、その人を形作っていく










 まるでその目で見てきたかのように、鮮明に思い起こせた。
 剣士になった彼らが、どのように鬼と向き合い、抗い、無垢な存在を守ろうとしたのか。
 どのように、その命を散らしたのか。










 誰かの命を守る為、精一杯戦おうとする人は
 ただただ愛おしい

 清らかでひたむきな想いに才能の有無は関係ない
 誰かに称賛されたくて命を懸けているのではない
 どうしてもそうせずにはいられなかっただけ

 その瞬間に選んだことが
 自分の魂の叫びだっただけ










 悔しさはあったはずだ。
 無念さもあったはずだ。
 しかし彼らの姿勢は、どれもが杏寿郎に語りかけていた。
 そこで途絶えた命に絶望するのではなく。
 次の者へとその思いを、意思を、繋げる為に。


(そうだろう──皆、)


 みしりと柄を持つ手に力がこもる。
 目の前まで迫る狼の巨大な牙を前に、杏寿郎は手首をしならせ刃を振るった。

 ざん、と断ち切れる二つの狼の頭。
 夜の闇に炎を纏う刃はうねり、


「は?」


 唖然とする鬼の頸へと喰い込んだ。

 炎の唸り声にも、獣の唸り声にも似ていた。
 赤々と燃え上がる炎が巨大な虎の姿を成して、杏寿郎と共に駆ける。
 鬼の体を喰らったのは、刹那の瞬き。

 〝伍ノ型──炎虎〟


「ほ…」


 ごんっと石段に衝突した鬼の頭が、ごろごろと転がりゆく。
 逆さまの視界で朽ちゆく己の体を見て、ようやく状況を理解した。

 それと同時に疑問が浮く。

 何故あの鬼狩りは、正確に刃を振るえたのか。
 耳を塞ごうとも、笛の音は微かにでも皮膚を通り鼓膜に届くはず。
 その術で全ての剣士を葬ってきたのだから。

 なのに何故。


「っ! まさか貴様、耳を塞ぐ時に平手で強打したのか…!」


 はっと鬼の目が見開く。
 両耳を咄嗟に塞ぐ為の行為だと思っていたものは、そうではなかった。
 自らの鼓膜をその手で破り、聴覚機能自体を放棄した行為だったのだ。

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