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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第16章 初任務《壱》



 じとりと、血生臭さが鼻を突く。


「寂しくはない。安心せい」


 満月に半分程かかっていた薄い雲が、ゆっくりと流れていく。
 鬼と杏寿郎の間の石段を、薄い明かりが照らし出した。


「今ならまだ仲間達が、三途の川で待っておる」


 白い石段は夥(おびただ)しい程の鮮血で染まっていた。
 鬼殺隊の隊服に身を包んだ若い男女が、折り重なるようにして幾つも転がっている。
 鼻を突く異臭は、その場に転がる遺体が原因だった。


「ほれ。ひい、ふう、みい…九つかの。転がっておる鬼狩りの死骸は」


 其処には鬼殺隊の遺体だけではなかった。
 千寿郎よりも幼い子供の遺体が、体の部位を失くして幾つも転がっていた。


「儂が内臓を啜った童(わらべ)の死骸が五つある」

「ひ…っひ、」

「おっと。まだ童が一匹生きとるのう」


 既に息を引き取った少女の剣士の腕の中で、身を竦ませ涙声さえ恐怖に捕われ引き攣っている。
 ほんの四、五歳程の少女だけが、辛うじてその場に生きている命だった。
 その命も、すぐにでも握り潰される存在だ。


「……」


 辛うじて生き永らえている命を守るように抱いている少女剣士と、その手前で蹲っている少年剣士。
 その二人は、杏寿郎の見覚えのある少年少女だった。

 最終選別で出会い、共に頑張ろうと激励を飛ばしたあの二人だ。
 共に顔や体を赤く染め、二度と覚めない眠りについていた。





『つい先日、笑い合った仲間が死ぬのはよくある話だ』





 昔、父からよく聞かされていた言葉だった。
 つい昨日まで共に切磋琢磨し、共に同じ釜の飯を食い、共に笑い合っていた者が命を散らす。
 死が当然のように蔓延(はびこ)る世界。

 それが鬼殺隊の世界だと。


「まあ皆仲良く手でも繋いで、三途の川を渡るが良い」


 ほっほっと上品な笑みを零しながら卑下する。
 微動だにしなかった杏寿郎の額に、みしりと血管が浮いた。

 どんなに人に擬態しようとも。
 どんなに身振り手振りを良く見せようとも。
 鬼の言動にはいつも反吐が出る。


「っ…!」


 ボ、と唇の隙間から噴き出す炎の呼吸。

 〝壱ノ型──不知火(しらぬい)〟

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