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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第16章 初任務《壱》



 共に頑張ろうとすぐに激励を送れなかったのは、その道を突き進めば彼はいずれ死んでしまう。
 その儚い笑顔と共に、消えてしまうような気がした。

 その時ふと、槇寿郎が息子達に冷たくなった理由を考えた。
 今までに何度も疑問に思ってきたことだったが、もしやそれは〝息子達を死なせたくないから〟ではないのかと思った。
 だから突如として剣士となる教えを放棄し、炎柱にはなれないと否定するようになったのではないのだろうか。

 父の気持ちは、父にしかわからないけれど。










「──此処か…」


 月明かりが鬱蒼と茂る木々の影を、足元に映し出す。
 静かな夜の森の中、杏寿郎は石段を登っていた足を不意に止めた。

 森の中にしては静か過ぎる。
 虫の音も動物の声も聴こえない。
 不気味な静寂を保つ中、杏寿郎は腰の日輪刀を音も無く抜いた。

 並ぶ墓石が、前方丘の上に遠目に見える。
 なのに鎹鴉の報告にあった他の剣士達の姿は一人も見当たらない。


(場所を間違えたか?…いや、そんなことはない)


 初任務であるからこそ、必ず遂行してみせると何度も念押して情報を確認したはずだ。
 再びゆっくりと、石段を一つずつ登っていく。

 並んで見える墓石が、より視界に鮮明に映し出される。
 一つ、二つ、三つ。
 緑の苔が生えた墓石は、均等な感覚で並んでいた。

 その四つ目に。


「おや、増援か」


 月明かりの中で影を作っていたのは、墓石ではなかった。
 倒れた墓石の上に座っている、一人の老人。


「たった一人で御苦労なことよ」


 見た目は何処にでもいるような老人だった。
 裕福な着物に身を包み、静かに杏寿郎を迎える声には荒々しさなどない。
 しかし皺を刻んだ目元に埋まる二つの目は奇妙に縦に割れ、薄く開いた唇から覗くは鋭い二つの牙。

 人のようで人ではない。
 その姿に、杏寿郎は足を止めた。


「…お前が墓場の鬼か」

「ほ、如何にも」


 ほっほっと上品に笑う鬼の足は、胡坐を掻いて座り込んだまま。日輪刀を抜刀した剣士を前にしても慌てる様子はなかった。

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