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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第16章 初任務《壱》



 幸薄さを残すような顔立ちの、長い黒髪を右下に結わえた少年。
 鬼殺隊剣士となる為の最終選別で出会った、それは杏寿郎と同じ歳頃の少年だった。




『俺も貴方みたいに強くなって、仲間を…皆を助けられる人になりたい』




 鬼に折られた刀を震えながらも握り締めて、今にもその爪が喉元を引き裂かんとしても、彼は逃げ出そうとはしなかった。
 間一髪、助けに入った杏寿郎の刀で鬼を倒すことはできた。
 未熟な腕ではあったが炎の呼吸を使う杏寿郎の腕に、彼は見惚れたのだと言う。




『鬼に家族を奪われることがないように…っ誰も。もう、誰も…!』




 高揚気味に声を上げる彼の隣には、家族か、仲間か、友人か。一人の少女が寄り添っていた。
 二人して、鬼により大切な何かを失ったのだろう。
 力強く何度も宣言する少年に一瞬気圧されたが、頬に飛んだ鬼の返り血を拭うとすぐさま杏寿郎も笑顔を返した。




『うむ! 俺はまだ柱でもなんでもないのでこそばゆいが、一緒に頑──』




 大粒の涙を称えて、儚い笑顔を浮かべている。
 そんな少年の姿を目の前にすると、何故だか言葉が詰まった。




『…一緒に頑張ろう!!』

『はい…!』




 それでもどうにか紡ぎ出せた言葉に、彼は尚も涙を流して頷いていた。




『俺の名前は白川進です。貴方は?』

『俺は煉獄杏寿郎! 同い年なんだろう? 敬語などいらないから、共に剣士として腕を磨き上げよう! 白川君!』

『っうん! よろしく煉獄くん…!』




 「頑張れ」「頑張ろう」

 誰にも背を押して貰えなかった我が家で、気付けば自分自身に向けて唱えるようになっていた言葉。
 時には自分の為に、時には千寿郎の為に。
 いつもなら簡単に言えるはずのその言葉が一瞬詰まって、するりと出てはこなかった。

 明確な理由などない。
 ただ目の前の泣き笑う彼が、どうしてか。




『それじゃあ、また鬼殺隊の任務で…! 煉獄くん!』

『うむ!』




 死んでしまいそうに見えたからだ。

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