第16章 初任務《壱》
「ど、どんな任務なんですかっ?」
「なんでも、とある山中の墓地に鬼が出るとの情報があったそうだ」
「山中ですか…」
「そう暗い顔をするな!」
「わっ」
山奥ということに不安を抱いたのか。
声が萎む千寿郎の頭を、大袈裟なまでに杏寿郎の手が掻き撫でる。
「俺だけではなく、他の癸剣士達も同じ任務を受けているそうだ。多数で立ち向かえば鬼も倒せる! 問題ない!」
「そ、そうなんですね」
ばさりと後方で羽音が一つ。
杏寿郎の頭上で旋回するは、一羽の鎹鴉──要。
早急に発てとの報告をしてきたが故に、無言の催促だろう。
その黒い影を見上げ、腰の日輪刀に手を添える。
「もう行かねば。千寿郎は俺が留守の間、家を守っていてくれ!」
「はいっ!」
炎柱としての任に就いてはいるが、槇寿郎は以前のように使命を果たさなくなった。
最低限の任務をこなすのみで、それ以外の時間は仏壇にある妻、瑠火の遺影の前に座っていることが多くなった。
故に千寿郎が家の一切を担うようにもなったのだろう。
その小さな肩に煉獄家の全てを預けるには気が重かったが、同時に共に煉獄の名を授かりし血を分けた兄弟。
いずれは千寿郎も、煉獄の名を掲げた立派な剣士になるだろうと。そこに置ける信頼は十二分にあった。
「では行ってくる!!」
「あっ兄上!」
日輪刀と最低限の荷物を所持し、家を飛び出す。
道先案内として飛ぶ要の後を追い駆ければ、門の前で遠くなる千寿郎が声を張り上げた。
「が…っ頑張ります! ぼく、きっと兄上みたいになります!!」
顔を真っ赤にして両手で拳を握る。
精一杯、懸命に声を張り上げて。
「兄上みたいに…!」
その姿勢が。
その言葉が。
『俺、貴方みたいになりたいです』
いつかの声と、重なった。