第5章 柱《弐》✔
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「蛍ちゃん…大丈夫かしら…」
「心配したところで結末は何も変わらない。あいつは宇髄に負ける」
「そ、そんなことやってみなきゃ…」
「そうだな! 伊黒の言う通りだ!」
「煉獄さんまで!」
姿を消した人と鬼。
その鬼を案ずる蜜璃に対し、小芭内と杏寿郎は現実を知っていた。
「一月二月程度鬼が鍛えたところで、越えられる程我ら"柱"は甘い鍛錬を積んできたか? 甘露寺よ」
「それは…そうですけど…でも蛍ちゃんも頑張ってきたわっ何度怪我して骨を折って筋を切っても、やめるなんて一言も言わなかったものっ」
「うむ。その通りだ」
「え?」
予想外にもすんなりと肯定され、拳を握っていた蜜璃の勢いが殺がれる。
「彩千代蛍はまだまだ弱い。しかし確実に昨日の自分より強い明日の自分となっている。後はその"己の強さ"を知ることだ」
「己の強さ?」
「俺が彼女を見込んだのは、その強さを感じたからこそ。技術や力ではない。"意志"の強さだ」
「…そんなもの鬼が持ってなんになる」
「わからん! しかし俺はその先を見てみたいと思った。だから手を貸した!」
つき合いきれない、と溜息混じりに目を逸らす小芭内とは異なり、両手を握り込むと蜜璃は期待に満ちた笑みを浮かべた。
「煉獄さんは蛍ちゃんの本質を見ようとしてるのね! 素敵な愛の形だわっ」
「…む?(愛?)」
きゅんッと胸を鳴らした蜜璃から飛び出た言葉に、腕組みをしたまま杏寿郎は頸を傾げた。
しかし考え込んでみたところで疑問は疑問のまま。
ただ一つ浮かんだのは、今は亡き母が残した言葉だった。
『なぜ自分が人よりも強く生まれたのか、わかりますか』
杏寿郎が、ほんのまだ十歳程の頃だった。
病弱でありながら、常に凛とした面持ちを見せていた聡明な母。
その母に問われ、諭されたことがある。