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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第16章 初任務《壱》












 ──百人が百人
 口を揃えてその才能を認め、褒め称える者でなければ
 夢を見ることさえ、許されないのだろうか




「お前も千寿郎も大した才能はない。くだらん夢を見るな」




 強烈な才能と力を持たない者の
 夢を叶える為の努力や、誰かの力になりたいと思うその心映えには




「お前は炎柱になれない」




 なんの価値も、ないのだろうか






























 白露(はくろ)感じる薄い空の下。
 杏寿郎は真新しい隊服に身を包み、生家の廊下に立っていた。
 ゆらりと燃え上がるような炎の羽織を着た大きな背が、去っていく。
 その様をただただ見つめて。


「父上──」

「それ以上くだらん話をするな」


 続けてかけようとした声は、低く冷たい声に遮られる。
 足はその場に縫い付けられたように動かず、静かに杏寿郎は口を閉じた。

 鬼殺隊の剣士となり、初めての任務を鎹鴉により告げられた。
 炎柱である父に真っ先に報告しに行けば、いつもの如く一蹴された。

 父──槇寿郎にとっては無意味なことらしい。
 あんなにも、炎の呼吸の使い手として炎柱を継がせることに、情熱を注いでいた男だったというのに。


「…く、ぅ…」


 広い廊下に一人きりで佇んでいた杏寿郎は、庭の隅に見慣れた小さな背中を見つけた。

 何百、何千と手にした竹刀を振り続けていたのだろう。
 幾つもできた肉刺(まめ)は潰れ、血の滲んだ両手を震わせながら、杏寿郎と同じ焔色の髪をした少年は膝をついていた。


(千寿郎…)


 弟である千寿郎だ。

 自分のことはいい。
 何度となく、お前は出来損ないだ、柱にはなれないと言われ続けてきた。
 父としての、また柱としての子に対する役割を放棄されても尚、育手を介せず自力でここまで上り詰められたのだから。

 しかし千寿郎は違う。


「ぅ…ぅ、う…っ」


 膝を付き、それでも竹刀から手を離すことはない。
 両肩を震わせ漏らす些細な嘆きは、痛み故の声ではない。
 非力な自分自身に対する、苦痛の声だ。

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