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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第16章 初任務《壱》



「君の瞳は、さながら螢火のようだな」

「けいか?」

「蛍火(ほたるび)のことだ。鼈甲飴を見つめる瞳も、列車の稼働を追う瞳も、反射するように色を吸い込み瞬き光る。ほのかな輝きだ」

「…?」


 意味がよくわからず頸を傾げる蛍に、ぽふりとあやすように杏寿郎の手がその背を撫でる。


「瞬く間に見る者を魅了する。まるで命の灯火のようだと言ったんだ」

「…ほめて、る?」

「無論! 俺はそんな瞳を持つ者を今まで見たことがない。それだけ、蛍も外の世界を楽しんでくれていると思っていいだろうか」

「…うん。きをひきしめなきゃっておもうけど、このれっしゃとか、さっきのおばあさんのことも、そう。ここはきさつたいじゃないんだっておもうと、なんだかそわそわして…はじめてがたくさん、で」

「うむ! その気持ちはわかるぞ、俺もそうだった」

「きょうじゅろうも?」

「鬼殺隊の剣士と成って初めての任務へ赴く時は、胸が騒いだ。体も高揚した。新たな世界に飛び出す気分は、俺にもわかる」


 鬼殺隊の敷地外を踏んだからだけではない。
 杏寿郎と共に向かう任務地もまた、蛍の心に風を吹き込んだ。

 どんな鬼と出会うのだろうか。
 外に住まう彼らはどのように生きているのだろうか。
 鬼殺隊としての心構えとは違うが、それでも強い興味が湧いた。

 それと等しい感情を、杏寿郎も抱えたことがあると言うのならば。


「きょうじゅろうのはつにんむって、どんなにんむだったの?」

「俺の任務か? よくある鬼の討伐任務だ。癸(みずのと)だった為、同じ階級の剣士達と共に鬼を討てと命じられた」

「あいてはどんなおにだったの? どんなふうにたおしたの?」

「…知りたいか?」

「うん」


 大きく頷く蛍は、まるで就寝前の物語をせがむ子供のようだ。
 幼気にも見えるその様に杏寿郎はゆるりと息をつくと、優しく笑った。


「ならば寝る前に一つ、話をするとしよう」


 それは、数余年前のこと。

 思い起こすように口を開くと、杏寿郎は窓の外へと目を向けた。
 次々に流れ消えていく景色の中で、在り続ける暗闇を見つめながら。

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