第16章 初任務《壱》
あらぬ方向に目を向けて視線が重ならないことも多いのに、こうも真っ直ぐに見つめられると今度はこちらが目を逸らせなくなる。
その瞳にたじろぎながらも蛍は口元を小さな手で隠した。
「すこし、は、きにしてください…」
幼き姿に変われば、蜜璃はすぐに両手を広げて抱き上げてくる。
行冥には頭を撫でられる回数が増え、義勇に袴の帯紐を掴んで持ち上げられたことも多々ある。
そんな小動物のような扱いばかり受けていたものを、目の前の杏寿郎は何一つ変わらず炎を宿した瞳を向けてくるのだ。
だから尚の事恥ずかしさが身に沁みる。
「本当に君は何をしても愛いものだなぁ」
そんな幼い少女を前にすると、あやしてやらねばと普段なら長男の性が出るものを。
耳まで赤くして俯く蛍の姿だと、尚もその姿を見たいと思ってしまう。
愛しいが故に勝る、焦げ付くような想い。
「そうだな…その姿でどんな顔を見せてくれるのか。そこには気が向く」
「ひゃっ」
頬を撫でる手が細い頸と鎖骨を滑る。
袴に着られている状態では、細い肩も薄い胸元も少しでも肌蹴れば簡単に見えてしまいそうだ。
儚い声で鳴く、いつもより拙く高い声。
誘われるようにその喉元に唇を寄せれば、袴で見えない手足がばたついた。
「ちょ、きょうじゅろ…っ」
「小さいな。今の蛍は、どこも」
「あたりま、え…わっ」
簡単に囲えてしまう小さな体を、己の下に引き摺り込む。
被さるように両腕を蛍の顔の横につけば、吐息が触れ合う程に近い距離。
「ま、まって。いまにんむちゅうっ」
「うむ。明日目的地に着けば、其処が最初の任務地だ。それまでは移動待機兼休憩時間としよう」
「なにそれ…んっ」
吸い寄せられるように少女の細い首筋に顔を埋める。
深呼吸をすれば、いつもの嗅ぎ慣れた蛍の夜の匂いがほんのりと──
「甘いな」
「え? あっ」
「幼児化で体臭も変化するのか? 面白い」
「ん、きょ、じゅろ…っ?」
ちゅ、と音を立てて口付けを落としていく。
頸に、頬に、耳に、鎖骨に。
その度に震える細い四肢が、押し返そうとして服に埋もれてしまう小さな掌が、どうにも健気で愛らしく。
気付けば夢中になって柔く張りのある肌を堪能していた。