第16章 初任務《壱》
「やっぱり…っ」
「昔は千寿郎と共に寝台で寝たこともあったが、よもや蛍とはそうはいかなかったか」
「……」
「うん? やっぱり、なんだ?」
「…ううん」
昔を思い出してか、蛍以上に窮屈なはずなのに、それは楽しそうに笑うものだから。拒む言葉などそれ以上吐けなかった。
「でもここまでぎゅうぎゅうだと暑苦しくならない?」
「換気も込みで、窓を少し開けてある。夏場なら丁度いい風だ」
杏寿郎の言う通り、僅かな隙間から舞い込んでくる風は客室の温度を程よく下げる。
それでも少しでも顔を上げれば、唇が触れてしまいそうな距離。
身動ぎ一つできない状況に、蛍は溜息をついた。
「蛍?」
つむじを見ていた杏寿郎の目元から、そのつむじが離れていく。
するすると縮む頭はより小さく。
壁に張り付いていた手足はより細く。
ぶかぶかな袴に着られるような恰好で、小さな子供へと変貌した蛍が程よく寛げる空間にようやく息をついた。
「これならきょうじゅろうも、ゆっくりねむれる?」
幾分幼い声で問いかけてくる。
丸く大きな子供の瞳は、何かと気遣ってくる普段の蛍そのものだ。
目を丸くするも、すぐに杏寿郎は口元を綻ばせた。
「そうだな。愛らしい添い寝に、心身共に癒されそうだ」
「…それはよかった」
優しい笑みを前に、ふっくらと丸い少女の頬に赤みが差す。
折角余白は作れたというのに、変わらず俯いて顔を隠す蛍の背に手を添えると、小さな体を抱き寄せた。
「わ、」
「どうせなら、その顔もよく見せてくれると嬉しいが」
「ち、ちかいちかいっかおがくっつく!」
「いけないか? 共に寝る時はこんな感じだろう」
「でもいまはなんというか…っ」
体を重ねた後の、気だるげな布団の中ではない。
任務中という意識も頭の隅にある所為か、対抗心が湧いてしまう。
そんな蛍に対し杏寿郎は驚く様子もなく、小さな唇を呆気なく塞いだ。
「んっ」
「…どうであれ蛍は蛍だ」
唇が重なったのは一瞬。
それでも驚き言葉を止めた蛍に向ける杏寿郎の目は、気だるげな布団の中と同じものだった。
「身形は関係ない」