第16章 初任務《壱》
「なんで? 無限列車に乗るんじゃ…」
「無限列車は日本全土を走っている列車だ。本部の傍を通るまで待っていては、大層な時間を要する。故にこちらから出向くことにした」
「えっと…つまり、列車を乗り継ぐってこと?」
「そうだ。その間にも幾つか任務を受けた。目的地までの間にこなせる任務があるならば、片付けていくに越したことはない」
「そ、そうなの? 私、聞いてなかったけど…」
「蛍が余りに無限列車を楽しみにしているようだったからな。水を差せなかった!」
「そ、んな楽しみになんか…っ」
羞恥半分、反省半分。
しどろもどろに返す蛍の言葉には力がない。
つい先程あさかぜ号も楽しんでいた蛍だ。
初めての体験だったこともあるだろうが、初めて鬼となって外の世界を自由に行き来しているのだ。
(弾む気持ちも抑えられまい)
その心理を杏寿郎も十分理解していた。
「気にすることはない、師である俺が許そう。楽しめる間は十分楽しむといい。鬼と遭遇すれば、そんな猶予もなくなる」
「…そんなに怖い相手なの? 外の鬼って」
「我ら人を喰らう存在だ。脅威以外の何者でもない」
一般的に〝鬼〟と呼ばれる者がどんな存在なのか。蛍も義勇から学び、それなりに熟知していた。
同情などという甘いもので向き合えば、たちまちに己が死に至る。
だからこそ義勇や蜜璃達が蛍に向けてきた感情は、同情などではないことも知ったのだ。
「…だから然るべき準備をしろって言ったんだよね」
「うむ」
「じゃあ、はい」
「うむ! 発言良し!」
「あれはなんですか」
挙手した手をそのまま傾けて、蛍が指差した先。
それは個室車両の中で向き合い座る、杏寿郎の頭上。板のようなものが取り付けてある荷台に、でんと乗せられている大きな風呂敷だった。
燃え盛る炎の模様は、まず間違いなく杏寿郎の持ち物だ。
「荷物は最小限にって言ったの、杏寿郎じゃなかった?」
「はははは!」
「あ! 笑って誤魔化した…ッあれ何!?」
「然るべきものだ!」
「だから何それ!?」
背中にぴたりと添える程度の蛍の風呂敷の荷物量に対し、優に十倍はある杏寿郎の大きな風呂敷。
そこには一体、何が入っているのか。