第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「蛍ちゃんの傍には煉獄さんがいるもの。煉獄さんがいれば、共に過ごした私達の思いも傍に置いていけるわ!」
「禰豆子さんにとっての炭治郎君のようなものですよ。あの子達が生きていけた世界ですから。あの二人も、大丈夫です」
そこにはっきりと形作られた明確な理由はない。
思いや経験という曖昧なものを口にする二人は、ただし他の柱のように陰りなど一切持っていなかった。
二人の女性が魅せる型の違う笑みに、思わず反論など忘れて口を閉じてしまう程。
「…あー…俺ら男にゃわかんねぇもんだなそりゃ…」
「俺達には? なんでですか?」
「女子(おなご)の勘のようなものだろう…彼女達だからわかるものだ」
毒気を抜かれたように一息つくと、それぞれに己の中で完結させる。
「大丈夫だろうがなかろうが、やることはこの先も変わらねェ。次の任務は俺にも入ってんだ」
「あ、不死川さ…っ」
蜜璃の声も聞かずに、先に姿を消したのは実弥だった。
「ま、不死川の言うことにも一理あるわな。俺も帰るか。花街行きの準備しねぇと」
「侵入捜査中でしたっけ?」
「ああ。こっちもこっちで危険なことやるのは変わりねぇしな」
「そういえば俺も任務入ってるんだった」
「そうか…気を付けて行くといい」
「大丈夫ですよ。…だからもう頭は撫でなくてもいいです」
「私達も次の任務、頑張らなきゃですね伊黒さんっ蛍ちゃん達を笑顔で出迎えられるように!」
「…そうだな。夜も遅い、送っていこう」
「えっあっありがとうございます…!」
各々の足が帰路につく中。一人、その場に静かに佇み変わらず鬼殺隊の土地の外を見守っているのは義勇。
バサリと羽音が耳を掠め、肩に一羽の鎹鴉が停まる。
「心配カノウ…?」
老鳥故に声はか細いものだったが、珍しくその場の空気を察知し問いかけてくる。
じっと一点を追っていた義勇の目が、ようやくその場から外れた。