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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔



「なんであれ、二人はもう発った。黙って見送ったのなら、黙って待っていればいいだろう」

「…元よりそのつもりだ」

「まぁ、そうだけどよ」

「チッ」

「だからもう帰って…」

「時透」


 小さな少年の頭に乗る、大きな掌。
 優しく撫でるだけの動作は子供扱いをされている気がしてならないが、相手が行冥とあれば跳ね退ける訳にもいかない。
 始終帰路を述べていた口を結ぶと、無一郎は既に気配のない二人に胸の内を開いた。


「…心配はしていませんよ。煉獄さんのことだから。問題は蛍の方で」

「…そうなんだよなぁ…煉獄曰く、遠足みたいに喜んでたって言うし。鬼になって初の外界だろ? 下手に感化され過ぎねぇか」


 天元もまた思う節があったのか、難しい顔で無一郎に同調する。

 義勇が蛍を見つけ出した時は、まだ鬼に成り立てで右も左もわからない赤子同然だった。
 しかし今は鬼の蔓延るこの世を理解し、抗えるだけの力も身に付けた。
 天元達が常日頃滅している本当の〝鬼〟と言うべき者に蛍が悪い意味で影響される可能性を考えれば、とても歓迎できる気分ではない。
 それでも反論一つ上げなかったのは、耀哉がそれを認めたからだ。


「あいつが鬼化に喰われるってんなら、その時は斬りゃいいだけの話だろォ。迷う必要もねェ」

「そこは迷ってねぇよ。ただわざわざ危険を冒す必要があるのかって話だ」

「我らが何を言おうとも、お館様が認めたことだ…南無」

「それ言われたら何も返す言葉はないんですけどね」

「……」


 沈黙を作る義勇以外、思い思いを口にする彼らの声は決して明るくはない。
 そんな同志である柱を前に、顔を見合わせたのはしのぶと蜜璃。


「ふふ。皆さん、なんだかんだ言って彩千代さんが気にかかるんですねぇ」

「やっぱり仲良しね! 素敵だわっ」


 その口元が、揃って綻ぶ。
 天元達とは違い、不安の色など見えない二人に目が止まる。


「あいつが心配っつーか、鬼の根本が何も変わらなけりゃあいつのここ数年も全部無駄に」

「大丈夫ですよ」


 ほのかに笑いながら、優しく頸を振る。
 しのぶと蜜璃には、男達には見えない蛍の姿が見えていた。

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