第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
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「行っちゃった…」
「行っちゃいましたね」
月明かりの空を舞う二羽の鴉。
その姿が遠退けば、主である二人の影も遠退く。
並んで歩く凹凸の影が二つ。
小さな粒となっても見送り続ける蜜璃に、しのぶは微笑みかけた。
「大丈夫ですよ、煉獄さんがついていますから。柱の中でも屈指の実力者ですし。それは継子だった甘露寺さんが何より存じ上げていますよね」
蜜璃が案じているのは、柱として数多の鬼を滅してきた杏寿郎ではなく、その滅する対象であるはずの鬼の蛍のことだ。
鬼であっても、討伐任務となれば危険に身を投じることに変わりはない。
それを理解していたからこそ優しく助言するしのぶに、蜜璃は八の字に曲げていた眉を跳ね上げた。
「そう、よね。しのぶちゃんの言う通りだわ! 師範はとってもとっても強いもの! ね、伊黒さん!」
「…煉獄が強いのは認める」
「も、勿論伊黒さんも強いのだけれ、ど」
「甘露寺、世辞はいい」
「お世辞だなんて! 本当のことよっ伊黒さんは私がドジした時もすぐ助けしてくれるし…っ」
「わかった。認める。だからそんなに力説するな」
頬を明るく染めたまま、両手拳を握って褒めちぎる蜜璃に、色白な小芭内の顔も血色良く変わっていく。
にこにこと黙って笑って事を見ているしのぶでは、手助けにはならない。
自ら空気を切り替えるように咳払いをすると、小芭内の金の右目が炎柱邸の塀を滑るように流れた。
「それよりも。いい加減、出てきたらどうだ」
その目が止まったのは塀の途切れた角。
月明かりの陰となっているその場から静かに姿を見せたのは、小芭内と同じ漆黒の長髪の持ち主。
しかし小芭内とは違い癖の強い髪に、その下の表情は感情が読み取れない。
「冨岡さん…!?」
口元に手を当てて驚く蜜璃は、その気配を感じ取れていなかった。
水柱の冨岡義勇である。