第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
個の主張は強いけど、此処にいるのは全員柱。
杏寿郎達は何も言わず、様子を見守ってくれた。
「私、蜜璃ちゃんの…その、姉妹弟子、なので。蜜璃ちゃんに何かあったら、黙ってません」
「何が言いたい」
初めて伊黒先生と出会った時のように。
可愛い桜餅色の頭の女の子のことで意見を交わせば、たちまち蛇のように鋭い殺気が向く。
以前の私だったら怖気付いていたけど、今は真正面から受けることができる。
だから逃げなかった。
「だから私がいない間、蜜璃ちゃんのことを任せます」
最初は、こんな男に蜜璃ちゃんが誑(たぶら)かされて堪るかと思ってたけど。
伊黒先生は、蜜璃ちゃんがどんな突拍子もないことをしても言っても受け止めて、時にはきちんと軌道修正もする。
無闇矢鱈に愛してる訳じゃない。
きちんと蜜璃ちゃんという人を見て、時に支えて、手を引くだけでなく、蜜璃ちゃん自身が歩み出せるように促せる人。
そんな二人を見てきたから。
二人の間に流れる空気は、二人にしか生み出せないものだと思えるようになった。
「伊黒先生になら、任せられるから」
蜜璃ちゃんだけじゃない。
一度は受け入れた私を再び否定する程に、杏寿郎を大切に思ってることも知ったから。
否定を向けられるのは正直きついけど、でも、私の大切にしたいひとを同じに大切にしてくれる人だ。
「フン。わざわざ頼まれなくても当然のことだ」
伊黒先生らしい返答だったけど、それで十分だった。
「その代わり、と言うのも可笑しいけど…杏寿郎のことは、任せて下さい」
「? 何をいきなり」
「全部を、とは言わないから。せめて伊黒先生の目の届かないところでは、私が杏寿郎を見てるから」
だから、私も。
少しずつでもいい。
杏寿郎が道を拓いてくれたように。
私にもできることで、少しずつでも進んでいかなきゃ。