第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「任務に赴く隊士には、原則一人一羽鎹鴉が就けられます。彩千代さんは鬼殺隊士ではありませんが、煉獄さんの継子として見るならそれも必要かと」
「え。じゃあ政宗をくれるの?」
「あげるとは言ってません。そもそも鎹鴉は物ではありません」
「あ、はい。すみません」
流石毒使い。
毒舌に余念がない。
「じゃあ…よろしくね、政宗」
「…ハァ」
「いやなんで溜息。そこはカァで返しなさいよ。いや喋れるんだからカァも可笑しい。ハイでしょハイ」
あ、そっぽ向いた。
ちょっと、頭に乗ってる状態で反応見るの大変なんだから。
返事しなさいってば。
それでも危機を共に乗り越えた間柄だから、政宗が私の鎹鴉として就いてくれるのは正直嬉しい。
後は頭を休憩所としなければいいんだけど…。
「待ってぇええ!!!」
「うぶ!?」
「カァ!?」
どうやって頭の大きな鳥を退かすか考えていたら、突如それは解決した。
猪突猛進の如く、突っ込んできた桜餅頭の女の子によって。
「みっ蜜璃ちゃん…っ?」
「よかったぁ! 間に合って! もう出発しちゃったかと思ったわ!」
気付けば蜜璃ちゃんの腕の中。
突っ込んできた蜜璃ちゃんの腕にそのまま抱かれたからだ。
物凄い衝撃かと思ったのは一瞬だけで、ぽよんと頬を打ったのは柔からな大福。
吃驚したけど、お陰で頭の鳥は回避しました。
ありがとう。
「わざわざ見送りに来てくれたの?」
「勿論! 蛍ちゃんの初任務だもの! しっかり見送らなきゃって思って!」
大福に包まれながら見上げれば、花のように笑う可憐な笑顔が出迎えてくれた。
蜜璃ちゃんも相変わらず蜜璃ちゃんだった。
胡蝶や政宗と違うところは、とても胸の奥がじんとするところ。
優しいなぁ。
「それに、これ。渡しておこうと思って」
こそこそと私だけに聞こえるような小声で、蜜璃ちゃんが何かを握らせてくる。
掌を見れば、小さな薄くて丸い容器が。
真っ黒な漆塗りの容器には、薄い桜色の花弁が散っている。
これって…
「艶紅(つやべに)?」
中を見なくてもわかったのは、昔月房屋でよく使っていたからだ。
女郎の必需品、唇に差す為の艶紅。
所謂口紅だ。