第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「では、扱いには重々気を付けて。慎重に判断するように」
「うん」
「何かあれば煉獄さんのご教授を」
「うん」
無限列車の任務を聞かされて、一週間と数日が経った頃。
月が昇る晩に、私と杏寿郎は炎柱邸の門前に立っていた。
今日は任務に発つ日。
私は日光対策用の袴に身を包んで、頭を守る為の大きな笠を手に。
杏寿郎は隊服に炎柱の羽織、炎の鍔を象った日輪刀を腰に。
そうして人知れず二人で発とうとすれば、前以て知っていた胡蝶が、頼んだ注射器を用意して持ってきてくれた。
今から蝶屋敷に寄ろうと思ってたから、わざわざ持って来てくれなくても。
一先ずとお礼を言えば「貴重な品なので出発前まで触られたくなかったからです」ときっぱり笑顔で突っ撥ねられた。
うん、相変わらず胡蝶は胡蝶だ。
「煉獄さんも無理なさらないよう。何か問題があれば、すぐ鎹鴉を飛ばして下さい」
「うむ!」
「彩千代さんも」
「え?」
「鎹鴉の伝達法は知っていますね?」
「それならまぁ…でもなんで」
私に?と訊く前に、胡蝶がピィと口笛を吹く。
すると月明かりに照らされた夜空を、羽ばたく真っ黒な羽根が。
あれは…
「政宗…!?」
「カァ!」
真っ直ぐに私の下へと飛んでくる、鴉の右目には見知った傷跡。
思わず両手を差し出せば、私の手元には目も暮れず器用に頭に着地した。
…ちょっと。
「そこ休憩所じゃないんだけど…って座り込まないで。寛がないで」
爪は立ててこないけど、ぽすんと頭皮に柔からな衝撃。
踏ん反り返って寛いでる。
相変わらずだな…久しぶりに会ったのに、再会を感動する隙も与えない。
流石独眼竜。
でもよかった、元気そうで。
藤の檻の火事以来、私の身の置き場も変わって全く会っていなかったから。
火事を告げてくれたお礼を、胡蝶から政宗に伝えてくれるように頼んではいたけど。
うんともすんとも音沙汰がなかったのは政宗らしい。