第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「中身もだけど、外見もね。そんな綺麗な麦畑みたいな髪の毛、初めて見たから」
不器用な反応を見せる杏寿郎に助け舟を出す気で、話題を振る。
「この髪か。父も弟も皆同じ髪色をしているぞ!」
「そうなの?」
そうすればすぐに杏寿郎の声に元気が戻った。
うん、いつものその感じも好きだなぁ。
「煉獄家では〝焔色(ほむらいろ)〟と呼んでいる! 俺の一等好きな色だ!」
「じゃあ遺伝なんだね。その髪」
「いいや。これは観篝(かんかがり)によって染まる色なんだ」
「かんかがり?」
「煉獄家では女性に赤子が宿ると、七日置きに第篝火(おおかがりび)を見るしきたりがある。それにより煉獄男子の髪は焔色に染まるのだそうだ」
「おおかがりび…大きな火をってこと?」
「うむ! 基本的に子を宿した女性が見て良いとはされぬものだが、煉獄家ではそうだった」
私の知らない、杏寿郎の世界だけでの出来事。
興味深くて思わず振り返れば、杏寿郎も思い馳せるように笑っていた。
「母も、それにより俺の髪は焔色に染まったのだと」
「へえ…凄い! どれくらい見続けるの?」
「一刻だ!」
「一刻も!?」
まだ薄らと暗がりを残す早朝。
小鳥の囀りでさえまだ早い。
だけど二人で身を寄せ合い湯船で体を温め合うこの場だけは、太陽が昇るまで賑やかな声が舞っていた。
お湯を飛ばすくらいに驚いて。
声を響かせる程に笑って。
沢山、たくさん、言葉を交わした。
お互いに、逆上せきってしまうまで。