第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「それも湯浴みを終えてからだ。それまでは一人物思いに耽るのもいいが、俺の相手をしてくれないか?」
お湯の中で緩やかに腰に回る二つの腕。
引き寄せられて、後ろから肩に杏寿郎の顎が乗る。
柔らかな黄金色の髪が、今はしっとりと濡れて私の肌をくすぐってくる。
すっぽりと私を包み込む大きな体をしているのに、甘えてくる姿がなんだか可愛くて。
背中を預けて、腰に回る腕に手を添えた。
「じゃあ、杏寿郎の話を聞かせて」
「ふむ、俺の話か。何がいい?」
「そうだなぁ…」
杏寿郎の幼い頃の思い出話も聞きたいし。
蜜璃ちゃんとの師弟関係の日々も聞いてみたい。
弟の千寿郎くんのことや、義兄弟の伊黒先生のことだって。
杏寿郎のこと。
杏寿郎の周りのこと。
知りたいことは沢山ある。
「聞きたいことは沢山あるんだけど…」
「そんなに俺の話が気になるか?」
「うん。杏寿郎のことだから気になるの」
私とは全く違う価値観を持っていて、強さを、温かさを、太陽のような光を持っているひと。
そんな杏寿郎みたいになりたいと憧れた時もあったけど、杏寿郎だからこそ惹かれるんだと気付いた。
「杏寿郎みたいなひと、私は今まで出会ったことがなかったから」
「…そうか」
その感情を乗せて伝えれば…あ、声が萎んだ。
間近にある顔はよく見えないけど、多分、照れてるんだろうな。
他人に与える時はっとするような言葉を告げるのに、自分が受け身となると不器用になるから。
そんなところも愛おしいと思う。
強くて優しい、不器用なひと。