第5章 柱《弐》✔
「……」
「なんだ? 風鈴見るの初めてとか言わねぇよなまさか」
「…それくらい知ってる」
透明な硝子の中で泳ぐ赤い魚。
懐かしさにも似た感覚だった。
だけど決して良い感情ではないそれを抱えながらじっと見つめていれば、目敏く忍者に指摘される。
「そーかよ。んで、俺のはこれだ」
そう言ってもう一つ、忍者が懐から取り出した風り…わあ。なんかきらっきらに輝いてる。
風鈴の硝子細工に刻まれた、宝石のような模様が月の光に反射して、きらっきらに輝いてる。眩しい。
忍者の額当てに似てるな…派手さが。
「どうだ、派手に綺麗だろ!」
「…派手に目がちかちかする」
「だろ!」
いや褒めた訳では…派手って言葉は、この忍者には褒め言葉なんだろうな。
というか忍者だよね?
忍者ってもっとこう、周りに溶け込むような真っ黒な装束に頭巾とか被ってる印象が…この忍者に忍者らしいところと言えば額当てくらいしかない。
それも宝石を散りばめた、派手めなもの。
「……」
「なんだ。言いたいことがあるなら言え」
「……」
「なんだつってんだろ。言えコラ」
「忍者なのに忍べてな」
「"元"忍だ憶えろ!」
「いっ」
スパァン!
やっぱり叩かれた。
だから言いたくなかったのに…!
ただ叩きたいだけじゃないのかなこの忍者は!
「いいか。一応今回の実践は"組手"が基本だから、日輪刀は使わないでおいてやる。だからお前の頸は斬らない」
斬られる前に、その平手打ちで頸がひん曲がりそうです。
「ただし時間は無制限。どちらかが殺られるまで続ける。朝日が昇っても、だ。此処は山頂だから、日の出も早い。悠長にしてたら死ぬぞ」
あ…だからいつも組手の前にしてる基礎運動を、今日は最低限にしかしなかったんだ。
「それともう一つ」
まだあるの?
「その風鈴は、俺が忍の時に作り上げた火薬を練り込んだ特別製だ。落として割ったりすれば、呆気なく爆発するからな」
なん、ですと。