第5章 柱《弐》✔
「だが俺は煉獄より厳しいぜ。鬼相手に情けなんてかける必要もねぇしな」
この忍者に、情けなんて最初からかけられてる気はしない。
あんなに私のことを認めない姿勢を取っていたのに、急に積極的に訓練に強力するなんて。
嫌な予感しかしないんだけど…
「これから実践で俺が課すのは一つだけ。〝殺られる前に殺れ〟だ」
とんでもないのがきた。
「どうだ。わかり易いだろ?」
わかり易いっていうか極端過ぎて逆にわかり難い。
何を殺るの? 命の奪い合いでもするの?
なんかこの忍者なら平気でしそうだけど。
「……」
「だからなんだその顔はよ。つーか今は口枷付けてねぇんだから喋れよ! 煉獄や甘露寺相手に散々喋ってんじゃねぇかお前!」
「…また覗き見してたんですか」
「えっやだまた覗いてたの!? 宇髄さん可愛い!」
「してねぇよ!! 普通に見てればわかるわ!!」
「ぃたッ」
スパン!と軽やかな忍者の叩きが頭に入る。
これだ。
すぐに頭をスパスパ叩くから、いけ好かないんだこの忍者。
「いいか、その詰まった耳をかっ穿ってよーく聞け! 殺るのはこの風鈴だ!」
と、威勢よく忍者が懐から取り出したのは、誰もが一度は見たことがある夏の風物詩、風鈴。
ちりーん、なんて風情よく風に吹かれて鳴っている。
「……」
「だっからその目ヤメロつってんだろ…!」
え、だって。
風鈴を殺る? 風鈴って生き物なんですか?
あ、忍者にとっては生き物なんだな。
きっと忍犬とか忍猫とかと同じに、忍風鈴とかそういう忍のお供がい…る訳ないから。
「頭、大丈夫ですか…?」
「ああ"!?」
「あだッ!」
バシンッ!と渾身の忍者の叩きが後頭部に入った。
ゴキッていった、今頸がゴキッて。
「こいつは自分の身代わりだ! 互いに所有する風鈴を割られる、もしくは奪われれば殺られたも同然! そういう意味だ!!」
あ、そういう意味…というか頭がじんじんする。痛い。
訓練始める前に、体の節々やられそうなんだけど。
「ほらよ、お前の分」
「っ」
掌に収まる大きさの風鈴を、無造作に放られて慌てて受け止める。
見れば見る程普通の風鈴で、ご丁寧に金魚の絵柄まで付いている。
落としたら簡単に割れてしまいそうな、華奢な風鈴だ。