第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「じゃあ早速出発の準備をしないと。遠征なら荷物も多くなるのかな」
「いや、必要最低限でいい。道中必要になったものは、藤の家の者達に手助けしてもらう。鬼を滅する為に赴くのに、身動きの取れない恰好をしていては本末転倒だからな」
成程。
藤の家の者達って、確か鬼殺隊の援助をしている家系の人達だったっけ。
鬼殺隊に救われた一族が、国中に散らばって援助の拠点を建てているらしい。
監禁され信用されていなかった頃は聞けなかった、鬼殺隊の細部の情報。
知れば知る程、政府非公認とは言われてるけどしっかりした組織なんだなぁと思う。
「蛍にとって必要不可欠なものだけ揃えればいい」
「御意」
必要不可欠なものか…何があるかな。
とりあえず、胡蝶に頼んで血液採取用の注射器は何本か用意して貰おう。
もしも飢餓が出たら困るし。
他は杏寿郎用の携帯食とか…いや、それは道中でお店を見つけてお腹を膨らませればいい、かな。
列車が通る場所に行くなら大きな街だろうし。
携帯用なら薬を持っていこう。
やっぱり鬼退治となると、怪我は付き物だろうし。
他には何かあるかな…。
自分のものとなれば、日光対策用の小道具くらいかなぁ。
「えっと…」
「……」
「杏寿郎?」
「ん?」
「何?」
指折り考えていれば、私の髪先を弄る指につい意識が向く。
目を向ければ、浴槽の縁に頬杖を付きながらこちらを見る杏寿郎が、静かに笑っていた。
「いや。やはり楽しそうだと思ってな」
「ぅ…ごめんなさい」
あ、見透かされてた…。
どうにも浮足立ってしまうのは止められそうにない。
「怒ってる訳じゃない。蛍が此処へ来てから初めての遠征だ。期待してしまう気持ちも理解できる」
そんな私の気持ちを汲み取って、優しく肯定してくれる。
杏寿郎の指が私の髪房を一握りして、そこに口付けた。
毎朝される、目覚めの口付けみたいに。
「だが出発の用意は明日からでいいだろう。今日は体を休めて、昨日の物書きの続きをしてくれたらいい」
あ、そうだ。
中途半端に終わっていた書類の整理があったんだ。
一日使わなくても、半日で終わる量だけど。