第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「程々に、なら。じゃなきゃ舌を怪我してたら、美味しいご飯も満足に食べられなくなるよ」
「なに! それくらい」
「酸味の効いた甘露煮とか、酢炒めとか」
「う」
「夏場はさっぱりしたおろし和えとかも美味しいだろうなぁ」
「む」
食事大好きな杏寿郎のこと。
今後の料理の献立を指折り考えていけば、威勢のよかった声が忽ちに萎んだ。
「蛍の料理は噛み締めたい…」
「ふふ。でしょ」
だから大事にしてね。
自分の体。
「──そうだ、蛍。近々遠征任務が入るかもしれないと告げたことがあっただろう」
ふと会話を切り替える杏寿郎の顔は、もう先程の陰りなんてなかった。
口にする任務の話に、表情も柱のものへと切り替わる。
「正式にお館様から任命を受けた。蛍の同行許可も取ってあるから、数日後には共に此処を発つこととなる」
「それって、あの列車の任務?」
「そうだ」
前に要が杏寿郎に報告していた任務だ。
正式に決まり次第、お館様と話をしてくると事前に杏寿郎から聞いていた。
私の任務同行もあって、直に話してきたんだろうな。
列車の中に出没するであろう、鬼を滅する任務だとか。
列車なんて大きな鉄の塊の乗り物、話には知っていても乗ったことなんて一度もない。
初めて外部の鬼と出会うことと、初めて杏寿郎と任務に赴くこと。
そして初めて列車に乗ることに、色んな感情が混ざり合ってどきどきする。
「列車の名前なんて言ったっけ。確か…」
「無限列車だ」
「むげんれっしゃ」
「……蛍」
「ん?」
「間にも言ったが遠足ではないからな?」
あ、もしかして顔がニヤけてたかな。
いけないいけない。
「勿論! 炎柱の継子として恥じない活躍をしてみせるから」
「それは頼もしいな、楽しみだ!」
外部の鬼を知りたい気持ちもあるけど、その鬼が杏寿郎に牙を剥くなら倒す覚悟はある。
この人を傷付けはさせない。
握り拳を見せて意気込めば、杏寿郎も爽快に笑ってくれた。