第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
嬉しそうに笑う杏寿郎には胸がきゅんとしたけど。
待って。
寝顔というよりあれは気絶に近いんじゃ…待って。
「へ、変な顔してなかった…?」
白目剥いてたり、とか。
「はは! 君はよくそれを気にするが全く問題ないぞ。寧ろ艶麗だった。…また見たい」
杏寿郎の太い指が、私の頬の輪郭を撫でる。
じっと向けてくる愛おしげな瞳に、そわりと気が騒ぐ。
鬼の体だから回復していても可笑しくないのに、まだ体の内側に熱が残っている気がして。
『きょ、じゅろ…も……っ』
『ああ…っ好きなだけ気をやるといい』
『ちが…っも、休ませ…』
『鍛錬ならこれ以上の時間を要してるだろう? ほら、まだ』
『あ、はッ…!』
『気持ちよくなれる』
「……」
「蛍? どうした?」
「…ウウンナンデモ」
…思い出した。
落ちる前の記憶は途切れ途切れだったけど、とにかく杏寿郎とどろどろになし崩してた感じが。
何回果てたか憶えてないけど…二桁はいってた。
二桁って。
割と体力には自信があるけど、ああも立て続けに求められたら回復も間に合わない。
杏寿郎から貰った血のお陰で、余計に快楽に落ちてしまったことも要因かも……にしても。
「杏寿郎、元気だね…」
「む?」
お風呂場の窓から感じる外の気配は早朝。
体に熱の余韻が残ってるってことは、夜通し杏寿郎に体を求められたということだ。
鍛錬でも夜通しはあるけど、あれとは全く別の疲労感。
でも目の前のこの人は、人間だというのに元気な笑顔を浮かべている。
そうだよね柱だもんね…一日の食事の量も並大抵じゃないし。
その分、体力や活力に変換しているんだろうな…。
二十代成り立ての体だし、性欲も大いにあるよね…。
色々と見誤ってた。
「求め過ぎたか…? どうにも蛍のあの姿を見ると己の欲が尽きなくて…すまん」
…ずるいなぁ、それ。
「ううん。嫌じゃなかったから大丈夫。私も…杏寿郎をいっぱい、欲しがった、し」
口にするのは恥ずかしいけど本当のことだから否定する気はない。
最後は何を口走っていたかも憶えてないけど、杏寿郎を求めていた気がする。
もっと、と力無く縋って。
呼ばれるままに名を呼んで。
何度も杏寿郎に染められた。