第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
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──あたたかい
ふわふわとした真綿で包まれているような、そんな揺り籠の赤ん坊のような感覚。
優しい匂いに、温かな空気に、ずっと浸っていたくなるような。
そんな夢心地。
「──蛍…」
私を呼ぶその声は聡明で熱く、そして優しい。
その人そのもののように。
黄金色の麦畑のような髪に、燃える炎を宿した瞳。
いつも笑っている口元は豪快なことばかり口にするのに、私に触れる時は酷く繊細だ。
「蛍」
そう、こんなふうに──……こんなふうに?
「…じゅ、ろ…?」
無意識に動いた口がその名を呼ぶ。
朧気に見えた間近にある大きな瞳が、尚も大きく見開いた。
私の声が聞こえてるんだ。
じゃあこれは。
「起きたか!」
夢じゃ、ない。
「なん…っ」
「急に起き上がると危険だぞ! 転んでしまう」
温かさは変わらない。
心地良さも変わらない。
だけどなんだか蒸し暑い。
条件反射で体を起こそうとすれば優しく抱きしめて止められた。
え。
ここ、杏寿郎の腕の中?
「わ、私…」
さっきまで記憶は朧気だった。
だけど覚醒すれば思い出す。
私、その、杏寿郎と…してた、よね?
なんで杏寿郎の腕の中で寝て…って此処、部屋じゃない!
「お、お風呂?」
「うむ! だから転ぶと言っただろう?」
蒸し暑さの原因はこれだったんだ。
肌を見せている杏寿郎に抱かれて膝に座ったまま、見渡す空間は見覚えのあるお風呂場。
私の体も何も纏っていなかったけど、お湯で濡らした熱い手拭いをかけて貰っている。
もしかして杏寿郎が、此処まで連れて来てくれたのかな…って待って。
その間の記憶がないんだけど。
「…杏寿郎」
「なんだ?」
「もしかして…私、落ちてた?」
意識が。
激しい組手や稽古をしたならまだしも。
さっきまで確実にしていたのは杏寿郎と体を重ねることだ。
戸惑いがちに問えば、湿気で濡れた前髪を下げ気味に、杏寿郎はにっこりといつもの朗らかな顔で笑った。
「ようやく君の寝顔を堪能できたな」