第5章 柱《弐》✔
❉
「よお! 鬼の小娘」
「……」
「初っ端から辛気臭ぇ顔してんな。なんだその眉間の皺は」
「痛っいたい…!」
「喋れんじゃねぇか」
次の日。
杏寿郎の言う通りに、訓練は裏の山の中に入っての実践となった。
だけどいつもと違ったのは、そこだけじゃない。
何故か私を出迎えたのは、あの筋肉盛りの忍者男。
思わず渋い顔をしてしまえば、ぐりぐりと親指で眉間の皺を押された。痛い。
「こんばんは、伊黒さん。伊黒さんも蛍ちゃんの様子を見に来たの?」
「…甘露寺が鬼の毒牙に掛からないように見ているだけだ」
「まぁ!♡」
外野には、いつものように顔を出してくれた蜜璃ちゃんと、そこに付き添うようについてきた蛇男こと伊黒小芭内。
最初は杏寿郎と二人だけの訓練だったのに、気付けば柱が三人も増えている。
…柱って暇なのかな。
「彩千代少女よ。今回の実践稽古は、この宇髄天元を相手にしてもらう」
「え?」
そう思いながら押された額を擦っていれば、思いがけない杏寿郎の言葉に耳を疑った。
「山中なら、俺より忍であった宇髄の方が得意分野だ。より危険度も難易度も上がる。良い案だろう!」
いや…いやいや。
杏寿郎の教えって身に付けば力になるけど、とにかく容赦がない。
初日は腕立てや腹筋や諸々の運動を各千回やらされたし。
杏寿郎と忍者の実力の差はわからないけど、遥かに私より上なのはわかる。
その柱の得意分野で相手をしろと?
瞬殺でやられるでしょ。
「本当に俺の好きにしていいんだな?」
「ああ。それが条件だったからな!」
「よし」
杏寿郎と入れ替わるようにして、目の前に立ちはだかる巨体。
蜜璃ちゃんから聞いたけど、この忍者、身長が六尺五寸三分もあるらしい。
(※六尺五寸三分…198cm)
六尺五寸って。
そんな馬鹿でかい身長の日本人、今まで見たことがない。
「あの煉獄の地獄稽古を相手に逃げ出さないとはな。そこらの隊士より、ちったぁ骨があるじゃねぇか」
あ、やっぱり逃げ出してたんだ…。
だから杏寿郎には継子がいないんだ…。
そうだよね。
蜜璃ちゃんみたいな捌倍怪力娘じゃないと、中々ついていけないよね…。