第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
よもや空耳かと思った。
しかし俺の羽織を掴んでいる蛍の手は、確かにそこに在る。
体を重ねることに少なからず恐怖を抱いていたと思っていた蛍が、俺を求めるようなことを口にするとは。
「…駄目、かな」
反応のない俺に不安を覚えたのか、蛍の手が羽織から離れる。
その前に掴んで引き止めた。
「駄目なものか」
許されるならば、その体に何度でも俺の証を刻み付けたい。
蛍を"そういう目"で見るようになってから初めて知った独占欲だ。
「ならば蛍の時間を全て貰ってもいいか」
それだけの欲があることを示唆すれば、掴んだ蛍の手がぴくりと反応を示した。
逃げの動作かとも思ったが、その手は抗おうとはしない。
「…いいよ。代わりに杏寿郎の時間もくれるなら」
控えめな声で告げてくる言葉を、一言たりとも聞き逃さないように集中する。
照れた様子を残しながら、それでも応えてくれる蛍に、俺の中で迷いは消えた。
「無論。炎柱としてではない俺の時間は蛍の為にある」
掴んだ手を指を絡めて握り直す。
そうすると蛍の手も柔く握り返しながら俺を見つめてくるからだ。
ほのかに頬を染めて潤んだような瞳で見つめてくる顔は、俺の継子でも鬼でもない、それ以外の顔。
「それを全て捧げよう」
俺だけが知っている、異性としての蛍の顔だ。