第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
自然とその身を抱く腕に力が入る。
尚更体温を感じるように引き寄せて、触れ合って、熱を交わす唇に互いの吐息が音を零す。
「ん…は、」
何度も口吸いを繰り返していれば、蛍の吐息に熱が宿る。
手にしていた鍋や箸置きは、いつの間にか畳の上に転がり落ちていた。
愛おしいという思いが膨れ上がるだけで、こうも目の前の体を求めてしまうとは。
我ながら節操がないと思ったが、一度感じた己の熱は簡単に消し去ることができない。
…それでも我慢はできる。
「…蛍」
静かに唇を離して名を告げれば、思った以上に自分の声は色を帯びていた。
「今、仕事の手を止めてしまっても構わないだろうか?」
それがどういう意味なのか、多くを語らずとも蛍にも伝わったようだ。
本日は蛍との鍛錬日ではない。
柱としての事務仕事をこなして一日を終わるだけだ。
「…ん」
小さく頷く蛍の応えは少し意外だった。
真面目に手伝いにも取り組んでくれる蛍のこと、仕事を一通り終えてからとでも言われると思ったが。
「大丈夫だ、最後まではしないから。少しだけ蛍の時間を俺にくれ」
それでも今は継子として働いてくれている時間。
無闇にその時間を奪ってはいけないと、以前のようにやんわりと告げた。
己の熱は後で時間をかければどうとでも鎮められる。
しかし蛍を求めた欲は、蛍でないと処理できない。
以前蛍の体だけを愛したように、その淫らな姿だけをこの目に焼き付けておこう。
己自身も熱は持つだろうが、自身の体のことだ。
後でどうとでも熱は処理できる。
細い首筋を指の甲で撫で上げれば、ぴくりと身を震わせた蛍が瞳を開く。
薄暗い部屋の中で光る赤い瞳が、揺らいだ。
「最後まで、してくれないの…?」
ほんの少し語尾を上げて問いかけてくる声が、まるで誘うような色香を放つ。
どくりと、己の心の臓が脈打った。
「前も、最後までしなかったけど…なんで…」
言いかけた言葉を呑み込んで、ふるりと頸を横に振る。
何か言い淀む気配を醸(かも)し出しながら、蛍は俺の羽織の裾を掴んだ。
「私も、杏寿郎が欲しい」