• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔



 ふと垣間見せる柔らかな表情。
 照れ隠しのように目線を外すと、蛍は持っていた平鍋を掲げた。


「それで、もう一つのお鍋は?」

「む?」

「そっちは無事だったの? 杏寿郎が使っていた方の」


 蛍の言い分は間違っていない。
 しかしそこに違和感を覚えたのは、本来なら蛍が口にするはずであろう台詞ではなかったからだ。

 何故なら。


「何故それがわかるんだ?」

「え?」

「その鍋は、伊黒が使っていたものだと伝えてはいないはずだが」


 羽子板代わりに使用した鍋を、凹ませてしまったとだけ伝えただけだ。
 なのに何故そうも当然のように言い切るのか。
 疑問に感じて告げれば、蛍の顔がはっとしたように固まって──


「っ」


 更に余所を向いた。
 俺から顔を逸らして固まっている。

 …よもや。


「…見ていたのか?」

「っ全部は見てない」


 問えば、今度は勢いを付けて頭を下げてくる。


「大きな声で捲し立て合ってるのが聞こえたから、喧嘩してるのかと思って…でも違ったみたいだから全部は聞いてない。ごめんなさい」

「いや、怒ってなどいない。だから謝らないでくれ」


 あれだけ声を張り合えば蛍の耳にも届くだろう。
 ということは…


「聞かれてしまったのか」


 小芭内とのやり取りを。

 蛍は答えを明確に口にはしなかった。
 しかしほのかな行灯の灯りに照らされた顔が、答えを物語っていた。
 そろりと俺に向けられた目が何かを訴えるように見つめてくる。

 僅かに下がる眉尻に、結ばれた唇。
 何かを告げたそうで、告げられないような顔。

 そんな顔を見ていれば、どこまで聞かれてしまったのか大方の予想はつく。
 …参ったな。


「ここまで口にするのは無粋かと思っていたが…聞かれてしまったのなら仕方ない」


 思わず諦めの苦笑を向けた。

/ 3465ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp