第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「それに、既に一度認めてしまっていた。初詣の日に」
初詣か…蛍がお参り先で逸れて迷子になってしまった日のことだな。
帰りは道に迷わないよう、その手を引いて本部まで帰った。冨岡と共に。
「存外、悪くはないと思ってしまった。お前達が並んで歩む姿を見る甘露寺が、とても嬉しそうで」
静かに告げる小芭内の目は、地面にめり込んだ駒を見下ろしていた。
しかしその目は駒ではなく、他の何かを見ている。
恐らく口にした日の我らの姿だ。
「…君は常日頃から冷静な判断ができる者だ。しかし声を荒げて俺を諭そうとしたのは、それだけ俺のことを気にしてくれたのだろう?」
声を張り上げて諭すなど、小芭内にしては珍しい姿だった。
それだけ真剣に、俺と向き合ってくれた証だ。
小芭内の要求には応えられないが、それでも十分俺の心には響いた。
…やはり君は昔から変わっていないな。
「俺の方から蛍を求めたんだ。しかし蛍は、最初こそ俺の手を取らなかった。自分は鬼だからと、人を喰らう者だからと、自分で自分の存在を否定していた」
「……」
「まるで君のようだと思ったよ」
小柄な体の内側に、秘めてる思いは誰より辛く重いもの。
しかしその重さを他人に分け与えようとはしない。
自分一人で抱えて進もうとする。
その姿はとても愛おしく、そして時に哀しくも映る。
「それでも、そんな蛍が欲しいと俺は告げた。俺にとって蛍は、鬼である前に彩千代蛍というただ一人の女性だ。鬼の枠組みでは括れない。…それは小芭内も一緒だ。君を君が憎む一族の血筋では、括れないんだ」
鬼に寄生し、人を殺させ私服を肥やす。
そんな一族に生まれた自分のことを、誰より見下し軽蔑しているのは小芭内自身だ。
だからこそ鬼殺隊に入り、鬼を滅するようになった。
一族全員の汚点を、一人で背負うかのように。