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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔



「現を抜かしたのではない! 未来を共に歩むべき相手を見つけただけだ!」

「鬼との未来だと…!? 人と鬼とでは時間の流れが違う! 歩む速度も違うと言うのに! 本当に共に歩めると思っているのか!」

「思っている!!」

「っ」


 互いの間を飛び交う駒は、常人では目で追えない。
 気迫をそのまま言葉に乗せて、小芭内を真正面から見据えた。


「時間の流れが違うからなんだ! 歩む速度が違うからなんだ! 知らぬ未来を予想して怯えるくらいなら、今手にできるものを全力で守り抜く!」

「それでこの先後悔するとしてもか…!」

「行動せずして後悔するくらいなら、行動して後悔する道を選ぶ! そもそも人生に置いて後悔しない生き方などないだろう!」


 未来は常に選択の連続だ。
 それが合っているかどうかなど、道を歩んだ者にしかわからない。
 道を歩んでも尚、答えが出ないこともある。

 迷いがなかった訳ではない。
 葛藤がなかった訳ではない。

 俺が選んだ女性が鬼であることを、父上が知った時どんな態度を取るのか。
 千寿郎が知った時、どんな顔をするのか。
 予想できない程、なまじ鈍くはない。

 それでも俺が手にしたかったのは、蛍の笑顔だ。
 鬼のその瞳から、綺麗な涙を流して笑うことのできる、蛍の笑顔だ。

 求めたものを与えられ、俺の腕で抱きしめることを許されたあの日。
 俺との未来を望んでくれた蛍を守ると決めたあの時に、迷いも葛藤も手放した。


「それでも進むのは、その道を信じる為だ! 己の心を燃やす為だ! 大切なひとの為に、誇れる自分である為だ!!」

「っ…!」


 平鍋の柄を両手で握る。
 低く腰に添えて後ろに構え、振り被ると同時に弾いた駒は炎の姿を纏った。
 轟音を響かせ貫いた駒は小芭内の平鍋で受け止められたが、勢いは殺せず。
 硬い鍋の中央に凹みを付けて弾かれ、勢いよく小芭内の足場にめり込んだ。

 よし!


「俺の勝ちだな!」

「…鍋の耐久性が悪い。真剣であれば打ち返せた」

「では二回戦といくか?」

「いや」


 小芭内はこれでいて負けず嫌いだ。
 だからこそ素直に負けを認めた姿に一目置いた。


「お前の心は十分知れた。…今更命じるものもない」

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