第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
『暫くうちで預かることになった少年だ。面倒を見てあげなさい』
そう告げた父上が、ある日突然一人の少年を連れて帰ってきた。
名は伊黒小芭内。
少年にしては絹のような長い黒髪に、左右の色が異なる瞳。
口元は常に包帯で覆っていて、その肩には白蛇が連れ添うように乗っていた。
随分と"普通"とはかけ離れた姿をしていたが、それで言えば俺自身も変わらない。
小芭内の外見に一切の偏見はなかったが、とにかく消え入りそうな儚い少年だと思った。
包帯を巻いた口から漏れる声も常にか細くて、会話をすると俺の声が大きいものだからよく掻き消してしまう。
故に小芭内の前では、その声を消してしまわぬよう気を付けて話すようになった。
今思えば、幼心にして気遣いを覚えた兆しだ。
俺より一つ年上だった小芭内は、それでも俺よりできないことが多かった。
聞けば生まれた時から座敷牢に入れられ、監禁生活を余儀なくされていたらしい。
伊黒一族。
その者達は、鬼に貢ぐことで金品を貰い、贅沢の限りを尽くしていた人間。
鬼に貢ぐこと…すなわち、己の子を生贄として捧げることだ。
小芭内もその生贄の一人だった。
正に鬼の毒牙にかからんとしていた時に、その命を救ったのが俺の父上だった。
幼くも、代々炎柱となる家系であった俺は、父上から隠すことなくその話を聞かされた。
俺の知らない世界で血に染まってきた小芭内のことを、哀しいとは思うものの怖いとは思わなかった。
『おれは杏寿郎! きみの名前は!?』
『……小芭内』
『小芭内か! よろしく!!』
俺が九つ。小芭内が十。
初めて言葉を交わしたあの日から、俺と小芭内は共に一つ屋根の下で暮らす間柄となった。
小芭内が我が家で暮らした時期は、決して長くはなかった。
それでも幼少期を共に過ごした、大切な義兄弟だ。
「昔はこうして、よく共に遊んだものだったな!」
カン!と小気味良い音を立てて、青い空を舞う長方形の小さな塊。
庭で対峙するように向き合う小芭内と、久しい"手合わせ"をする。
手合わせと言っても、幼い頃に互いに競い合うようにして楽しんだ遊びの一つだ。