第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
果たして冨岡はどんな顔を見せるのか。
肯定か否定か、はたまたどちらでもない顔か。
「…ならば守り通せ」
それは、俺が予想していたどの顔とも違っていた。
俺には関係ないだとか、興味がないだとか、そんないつもの気の無い返事を貰うと思っていた。
しかし冨岡は真っ直ぐに俺の目を見て、そう告げたのだ。
「鬼にも人にも成りきれていないと彩千代は思っている。事実、あいつの立場はその中間。どちらでもあり、どちらでもない」
いつもは俺の声に掻き消される程小さなものである冨岡の声が、凛と響く。
…否、そうだった。
蛍のことに関して俺と対峙した時は、その声に強い意志を響かせていた。
二言三言しか話さない口が、思いの丈をぶつけてきていた。
冨岡がどんな思いで蛍を見ているかは知らない。
ただはっきりとしていることは、彼なりの覚悟はやはりあったのだろう。
「その手を握ると決めたなら、必ず離すな。最後まで」
だからこそ、だ。
「無論。俺が慕ったのは鬼でも人でもない、蛍自身だ」
冨岡には、俺の決意をしかと伝えねばと思ったのは。
「だからこそ離しはしない。全身全霊で守り抜く」
静かな水面のような黒い瞳。
一直線に貫かれれば、その瞳の奥にも揺るがない意志が見える。
柱にまで成った男だ。
日頃は俺達とあまり関わろうとはしないが、その奥底に秘めたる思いはあるはず。
その眼をしかと見返した。
逸らしてはならないと思った。
一瞬のようで長くも感じた沈黙を破ったのは、冨岡だった。
「…それならいい」
あっさりと身を退いて、貫くような視線を外す。
背を向ける冨岡はもういつもの彼の姿だった。
「冨岡」
「……」
「君には感謝している。俺では蛍を、この鬼の世から見つけ掬(すく)い上げることはできなかった。君だからできたことだ」
それだけは、お館様の仰る通り冨岡にしかできなかったことだ。
「ありがとう」
今一度、頭を下げる。
今度は謝罪の意ではなく、感謝の意で。