第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「まず節分では随分と蛍が世話になった。礼を言う!」
「…節分の規定に従っただけだ。礼を言われるようなことはしていない」
「それでもだ。俺は蛍の師として、君に礼が言いたい!」
「……」
再び沈黙。
感情の読めない無機質な顔のまま、だが去ろうとはしない。
聞く耳を持ってくれているということだな。
ならば本題だ。
「そして前々から謝らねばとも思っていた」
「…?」
「蛍をこの地へ導き、常に目を向け、面倒を見ていたのは冨岡だ。その手元から我が継子として引き抜いたことを、謝罪する」
ようやくこちらに向いた目に、頭を下げる。
継子としての許可はお館様から頂いた。
故に冨岡も反論はできなかっただろうが、何か思いはあったかもしれない。
柱合会議の中で、何かその目に訴えるものがあったようにも思う。
「謝る必要はない。彩千代自身もそれを認めたから、お前の下にいるんだろう」
それでも肯定も否定も取らなかった。
冨岡らしい返答だ。
そして彼の言う通りだとも思う。
しかし告げるべきはそれだけではなかった。
だから引き止めたんだ。
「継子としてだけではない。俺にとって、蛍は大切な女性だ。…そう、蛍自身にも告げた」
下げていた頭を上げて、黒い眼(まなこ)を見返す。
無表情を貫いていた冨岡の顔が、初めて感情を見せた。
驚いているのだろう。僅かに瞳孔を開いて、今度ははっきりと俺を見た。
「蛍は、俺の想いを受け入れてくれた。鬼も人も関係ない、守るべき女性として誰にも譲れないんだ。なので先に謝っておく!」
例えお館様のお墨付きである、冨岡にしかない結び付きがあったとしても。
それでも蛍が握ってくれたのは俺の手だ。
俺を選んでくれた、俺の想いに応えてくれた蛍を、今更離しはしない。
誰にも、冨岡にも、譲る気はない。
果たして冨岡が蛍に特別な感情を抱いているか、はっきりとはわからない。
それでも伝えねばと思った。
これはけじめだ。
俺が進む為の。