• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔



 今まで優しい微笑みを浮かべていたが、今までとは違う笑顔を見せる。
 開く口元に揺れる黒髪。
 お館様にしては珍しい、動のある笑顔だ。


「その気持ちを忘れないでおくれ」


 蛍と出会えたが為に、見つけられた想いだ。
 お館様は蛍がなかったはずのものを見つけ出したと言ったが、それは俺も同じだった。

 本来なら埋もれていた心。
 重ならなかった心。
 だからこそ何物にも代えられない唯一の心だ。


「御意!」


 ぴしりと姿勢を正し、深く頭を下げる。
 本日いの一番の声が出せた気がした。






























 お館様の屋敷敷地の薬医門(やくいもん)の前で、今一度頭を下げる。
 来た時よりも心なしか軽くなったのは、足取りだけではない。

 そのまま我が屋敷に一直線に帰るつもりだったが、背を向け歩き出した視線の先で一つの人影を見つけた。
 髪型にも特徴はあるものの、それ以上に目を止めるのはその独特の羽織だ。

 偶然か否か。


「冨岡! 奇遇だな!」

「…煉獄か」


 擦れ違うように歩む道が重なったのは、水柱の冨岡だった。


「何処へ向かっているんだ? お館様の所か!」

「通り道だっただけだ」

「成程! して、何処へ」

「…煉獄には関係ない」


 気の無い物言いで去ろうとする冨岡に、いつもなら雑談を望みはすれど、無理に引き止めはしない。


「待て。冨岡」


 しかし今は、引き止めるだけの理由がある。


「少し話をしないか?」


 お館様の下で、改めて実感した冨岡への感情。
 そこに整理をつける為にも、彼とは一度話をせねばと思っていた。


「俺に話はない」

「そうか! しかし俺には話がある!」

「……」


 口数の少ない冨岡のこと。
 無言は了承と捉えて良いな!


「蛍のことだ」


 その名を口にすれば、顔はこちらを向きはしなかったが、足は去ろうともしなかった。

/ 3466ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp