第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「どうかな? 一人の女性として。蛍は、杏寿郎にはどう見える?」
問いかけてくるお館様は、いつもと変わらない微笑みを浮かべていた。
しかしその問いが意味成すことは?
ただの好奇心か、それとも鬼殺隊に必要な情報と見てか。
「…失礼ですが、お館様。それが今この場に必要な答えであると、俺は思えません!」
愚問だ。
どうであっても俺が取る道は一つ。
「俺の蛍を見る目がどうであれ、任務に向かうのであれば俺は柱であり、蛍は継子。それ以上も以下もない!」
蛍を守る為の道だ。
「そうではありませんか!?」
「…そうだね。確かに杏寿郎の言う通りだ」
微笑みは変わらず。
お館様は俺の意見を否定はしなかった。
「野暮なことを訊いてしまったかな。でも杏寿郎も蛍も、私にとって大切な子供達だ。親のお節介だとでも思ってくれればいい」
俺との関係を、鬼殺隊に役立てようと考えていた訳ではないということだろうか。
であるとするならば、強く否定もできない。
「…お館様に気に掛けて頂けるのであれば、光栄の至り。ですがそれがもし好奇のお気持ちであるならば…どうか、彼女をそっとしておいて頂けませんか」
しかしそこに悪意がなくとも、蛍を好奇の目に晒すことに変わりはない。
それはなるべくなら避けたいことだ。
今まで十分、彼女は鬼を見る目に晒されてきたのだから。
「失礼を承知でお願い致します。俺にだけその目を向けるならば、いくらでも質問にお答え致しましょう。しかし蛍には、何も問わないで頂きたいのです」
お館様が相手となれば、全てを否定する訳にもいかない。
ただそこだけは譲れなかった。
男ならば、惚れた女の一人くらい守れずしてなんとする。
視力を失ったお館様の目を、一寸足りとも逸らさず見据える。
その意志が伝わっているかのように、お館様もまた静かに俺を見返した。
「…人としても、男としても、君はどこまでも熱い志を持つ子なんだね」
ふと、お館様の声色が和らいだ。
常に和らいでいるものだが、神経を揺らすような摩訶不思議な音色が、静まった気がした。
「安心したよ。杏寿郎になら、蛍を任せられる」