第15章 情炎 あわひ 恋蛍✔
「……杏寿郎」
「む?」
「私、真面目な話してるんだけど」
「うむ!」
「いやうむ!じゃなくて。なんで笑ってるの」
赤の他人にここまで親身に心を寄せられることが、こんなにも嬉しいことだったとは。
宇髄が奥方達を心底大切に想う気持ちが理解できた。
繋いだ手は当然のように、そこに温もりを残してくれる。
寄り添い、心に触れ、喜びも哀しみも分かち合う。
共に帰ろうと手を引いてくれる存在が、こんなにも愛おしいものだったとは。
「すまん!」
「そんな凄い笑顔で言われても。謝られてる気が全然しない」
「すまん!!」
「声が大きくなっただけ!」
すまない!
罪悪感より幸福感が[[rb:勝 > まさ]]ってしまったんだ!
「はぁ…やっぱり怒ろうかな。一ヶ月さつまいも料理禁止ね」
「よもや!? そ…っそれは些か大き過ぎる罰則ではないだろうか…!」
「それ杏寿郎が言う? 鍛錬の時はもっと酷な提案してくるのに」
「鍛錬は鍛錬! 食事は食事だ!」
「反省の色が見えない。さつまいも禁止二ヶ月」
「! す、すまん!!」
「声が大きいだけ」
「す…ッみ、ませんでした…以後、気を付けます…」
好物ということもあるが、蛍の作るさつまいも料理だからこそ美味いんだ。
それが食べられなくなるのは辛い。
つい声量が上がりそうになるのを耐えて声を萎めれば、溜息をついてそっぽを向いていた目が再び俺を捉えて、
「ぶふッ」
笑われた。
よもやだぞ。
「何故笑う…俺はこんなにも真剣に謝ったというのに」
「ご、ごめん…っあまりにさっきとの温度差酷くて…ッ」
身を捩る程に可笑しかったのだろうか。
爆笑はしていないものの、言葉が閊(つか)える程に笑いを堪える蛍に、今度は俺の顔が真顔になる。
「柱ともあろう人が、さつまいも一つで…っは、面白い…ッほんと、杏寿郎って可愛いところあるよね…っ」
「男が可愛いと言われても嬉しくはないぞ…」
「いいよ。私が、嬉しいから」
それは言葉としての理屈が可笑しい。
そう思ったが、余りに蛍が嬉しそうに笑うから。
ならばそれでも良いかと思ってしまった。
これが惚れた弱み、と言うものなのだろうか。